免許皆伝を受けて刀身と鱗の二つを譲り受けたミズラフは、その日の夕方に友人の鍛冶屋の家に出かけた。
「ダルクアっ!」
総主教曰く試験は終わっているはずなので、彼女はもう休んでいるはずだ。
「……やあミズラフ、どうした?」
扉を叩くこと数秒、中から小柄な少女が現れた。長い黒髪は後ろで束ねられており、その身長のせいもあってか腰まで伸びている。
少女らしい可愛らしい顔つきと滑らかな肌、小柄な体躯は間違いなく十代前半のものだが実は少女は二十歳を越えていた。
ドワーフのダルクア・バルタザール。エスルアーの娘でありミズラフの幼馴染でもある少女だ。
「ダルクア、今日が試験と聞いて……」
「心配して来てくれたのかい? 心配いらない、ボクは合格した」
カラカラと屈託なく笑うダルクアではあるが、その笑顔の裏にどれだけの努力や苦労があったのかを察せぬミズラフではなかった。
「おめでとうダルクア」
「ありがとう。ミズラフも合格したらしいね、さっきそーしゅきょーと母さんが話していたよ」
おめでとう、と告げるダルクアにミズラフは手の中にある二つの素材を見せた。
「今日はダルクア・バルタザールにこれを見て欲しくて……」
「武術免許皆伝ミズラフ・ガロイスから鍛冶屋のダルクア・バルタザールへの初めての依頼というわけだね」
いたずらっぽく微笑むと、ダルクアはミズラフから素材を受け取り、彼を家の中へと招き入れる。
「適当に座っていたまえ、今ココアを出すから」
リビングは長い木のテーブルといくつかの椅子があるだけの質素なものだが、ミズラフにとってはどんなに飾り立てられた部屋よりも落ち着ける場所だった。
「ヤマツミ村一の達人であるそーしゅきょーから免許皆伝を貰ったなら、ミズラフはこの村で一、二位を争う使い手というわけかい?」
台所でココアをいれながらそんなことを呟くダルクア。この鍛冶屋にはダルクアと母親であるエスルアーの二人しか暮らしていないため全体的に家具は小さく、今彼女が向かう台所もママゴトのセットのような大きさだった。
「いやいや、俺はまだまだ弱い。今日も総主教が剣だったからまだ技が見切れたというだけだ……」
否、剣術であってももし総主教が本気でミズラフに襲いかかってくるならば今日の動きよりも遥かに激しいものになるだろう。
そうなれば勝ち目は万に一つもない、それほどミズラフと総主教の実力には開きがあったのだ。
「でもそーしゅきょーも最初から強かったわけじゃない、だろう?」
二人分のココアが注がれたマグカップを持ってエスルアーはリビングに立ち入る。
白い雨模様の入った青いマグカップをミズラフの前に置くと、エスルアーはもう一つのマグカップを手に椅子に腰掛けた。
「……そうだな。総主教はたしかに強いが、俺もまだまだ強くなれるはずだ」
「その意気さミズラフ。ところでボクに見せたいものとは?」
静かに素材を差し出すミズラフ、ダルクアのほうは受けとった二つの素材、すなわち黒い鱗とドラゴニウムの刀身を手の中で転がし慎重に眺める。
「母さんから随分前に聞いたことがある。君が見つかったときに持っていたものだって」
「……その二つを使って武器として使えるようにして欲しい」
実際彼は武術を修めはしたが、彼専用の武器は持っておらず、これから記憶を探す旅に出るならば丸腰のため非常に心もとない。
そこで総主教から受け取った二つの素材を使用して武器を作り、これからの旅の御守りにしようと思ったのだ。
「ははあ、随分思い切ったね。素材としては申し分ないと思うけど、良いのかな?」
この二つはミズラフにしてみれば記憶を探す手がかりとなるもの、それを加工しても良いのだろうか?
「ああ、実はな……」
ちらっとミズラフはダルクアの手の中にある黒い鱗に視線を向けた。
「なんとなくその鱗を見てると嫌な予感がしてきてな、正体不明の何かが鱗を侵食しているような……」
「……ふうん。なんだかわかったようなわからないような、とにかくやってみるさ」
ダルクアとしてはわざわざ刀身の形を保っているドラゴニウムを融解して打ち直すつもりはない。ある程度の形を残しつつ、鱗の性質を加えれば十分武器として使えるようになるだろう。
「茎にあるドラゲイの紋章や形状はそのままにしておくから、武器としては君の得意な長柄武器、蛇矛がちょうどいいだろうね」
蛇矛、霧の大陸発祥の長柄武器だ。グネグネと蛇のような刀身と長い柄を持つ武器で、かなりの重量だとか。
どれほどの重さかはわからないが、あまりに重ければミズラフには持つことが出来ない、知らず彼の背中を冷たいものが流れた。
「ははは……。心配しなくても大丈夫さ。このボクが鍛え
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