「あらあら、こんなところで眠るなんて、風邪をひくわよ?」
碧が目を覚ますと、目の前に紅玉のような紅い瞳を持つ魔物がいた。
魔物の後ろには同じく紅の瞳に黒く艶やかな髪を備える稲荷の少女がいた。
「私は、っ!、そう、上田進次郎に刺されて・・・」
慌てて脇腹を確認するが、短刀は刺さっておらず、しかもしっかり止血もされている。
傷口は完全にふさがっているわけではないようだが、血液を高熱で焼いて止血したのか、とりあえず出血そのものはなくなっている。
「・・・助けられたみたいね、あの青年、立花木工助に」
魔物の言葉を聞いても、碧は信じられないようで、驚きのあまり目を見開いた。
「な、なぜ彼がっ、私は私の欲望のために彼から霊鳥を奪ったのに・・・」
「さあ、私は魔物だから彼の考えはさっぱりわからないけど、それがこの國の武士なのではないかしら?」
武士ーーー碧は自分や上田進次郎の所業を思い返してみた。
自分達の欲望のために波乱を起こし、勝手な理由で平和に暮らしていた霊鳥を捕まえ、あまつさえ利用し尽くしてから始末する。
それが、この國の武士階級なのか?
「・・・あなたが誰かは知らないけど、私に何をさせようというの?」
碧の言葉を聞いて、魔物はため息をついた。
「別にどうこうしろと言うつもりはないわ、元々私はジパングにいる古い友人に会おうとして巻き込まれただけだもの、けれど・・・」
ちらっと魔物は空を眺めた。
「まだあなたが恩を受けて返さなければならないと思えるならば、出来ることがあるのではないかしら?」
しばらく碧は黙っていたが、やがて重々しく口を開いた。
「立花木工助は霊鳥を取り戻すために加賀屋城に向かうわね」
「そうでしょうね」
短く魔物が応じると、碧は目を閉じながら呟いた。
「単騎で城は落とせないわ」
「そうかもしれないわね」
簡単な相槌ばかりではあるが、魔物は碧がどうするのか、それを見極めようとしていた。
「・・・この身がどうなっても構わない、立花木工助が討死する前に、彼を助けるわ」
魔物は碧の言葉に、妖艶に微笑んだ。
「良いわ、ならば貴方のその身体、この私・・・」
すっと魔物は優雅な動作で右手を碧に向けた。
「魔界第四皇女デルエラが、恩を返せるようにしてあげる」
「状況は?」
加賀屋城の地下、かつては地下牢として使われていた巨大な空間に一つの異質な物体があった。
外見は埴輪の時代のジパングの船によく似てはいるが、その大きさは現在の水穂國のいかなる艦船よりも大きかった。
「ほぼ完了です」
作業にあたっていた武士は、ゆらりと現れた城主上田進次郎宗智に報告した。
「霊鳥を最深部に設置、稼働とともに飛行は可能ですが、現在最終チェック中です」
武士の言葉に、宗智は軽く頷いた。
「急がせろ、準備が終わり次第出航だ」
「伝令っ!」
地下に一人の兵士がかけこんできたが、その表情は焦りと驚きに満ちており、急いで来たためか息も荒い。
「加賀屋城下に敵将が接近、霊鳥を取り戻しに来たものかと思われますっ」
「来たか、意外と早かったな、して数は?」
宗智の言葉に兵士は答えた。
「そ、それが・・・」
「せいやああああっ」
雄叫びをあげながら定満は馬上から刀を振り回し、並み居る兵士を薙ぎはらう。
途中で敵兵から槍を奪うと、今度は片手で手綱を握りながら豪快にぶん回す。
「まったく、使ったことないからって乱暴に扱って、あれじゃ死ににいくようなものだよ」
清和は呆れたようにそう言うが、動き自体は悪くないため、危なげなく定満は確実に兵士をなぎ倒しながら先へと進んでいる。
「ともかく、ボクも元老院付きの武士らしく頑張らないとね」
清和も落ちていた槍を拾うと、こちらは見事としか言えないような動きで的確に数を減らしていく。
「さ、まだまだかんばるよ」
清和の少しく前方、定満は叫びながら先へ先へと進んでいく。
「どこにいるであるかっ、凪姫っ」
「兵力はたったの二騎っ、現在三の丸の大手門にて門兵と交戦中ですっ」
兵士の言葉に宗智は驚いた。
動きが早いとは思っていたが、まさかたった二人で加賀屋城の攻略に乗り出そうとは身の程しらずもいいものだ。
「大手門に城兵を傾けろ、奴らを生かしては返すな」
大手門の戦いは激しさを増していた。
定満、清和ともに奮戦してはいるが、あまりに敵の数が多い、このままでは勝ち目は薄いかもしれない。
「さすがに手強いであるな」
すでに大手門では乱戦の様相を呈しており、定満と清和は背中合わせになりな
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