妻とよりを戻しました
scene15
私の母親は、いつもいつも誰かに暴力を振るわれていました。
私が物心ついた頃から、何度か住処は変わりましたが、その都度同じ男に殴られていました。
母親は、私から見ても悪くない容姿をしていたと思います、ですがあまりに精神を磨耗していたためか痩つれ、目つきも悪くなっていました。
「・・・あの人が、いてくれたら」
夜になると、母親は私を抱きしめながら眠りましたが、あの人とは誰のことか私はわかりません。
ただ、身体を震わせながら眠る母の声からは、微かな諦観と、深い後悔が滲んでいるように感じました。
私には普通の人と違うところが二つあります。
一つは日本人らしくない紫の瞳、母はいつも美しいと褒めてくれます。
もう一つは明らかに長く伸びた二つの耳、丸い形をしているのではなく、鋭く尖っています。
母は、善人ではないですが悪人でもありません、大半の人間と同じ普通の人間です。
母が何故男に殴られても金子を得ようとしていたかと言うと、せめて私を助けたかったからなのかもしれません。
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scene16
虐げられ、泣き崩れる母親を見る、そんなことを一日おきに見て、小学生に間もなくなる頃、私の生活は変わりました。
「府警の東雲だっ!、通報により捜査させてもらう」
突然家に現れた短髪の捜査官、彼は母が何か言うのも聞かずに上がり込み、もうなんらかの確信でもあったのか、まっすぐ押入れに向かい、何かを探し始めます。
「・・・やはり」
捜査官は押入れにしまわれていた箱を開くと、中からたくさんの白い粉と、注射器を取り出しました。
「どうやら話しを聞く必要があるようですな」
捜査官はこくりと頷き、うつむいたままの母親をかかえ、扉の前にいた警察官に引き渡した。
「では、君にも来てもらおうか」
初めて外に出て、私は捜査官の運転する車に乗せられて警察署に向かいました。
シルクハットの怪しい怪盗が映る指名手配書のポスターが壁に貼られた待合室でしばらく待っていると、私を助けてくれた捜査官が入ってきました。
「酷い生活をしていたようだな」
その捜査官は私の耳や瞳には何もいわず、淡々と事情を聞いています。
「・・・なるほど、よくわかった、今後はおそらく、母親とは離されることになるだろう」
今日はもう休むと良い、そう告げると捜査官は外に出ようとします。
「あ、あの、気にしないの、ですか?」
ついつい私は捜査官を引き止めてしまいました、私の耳に目を向けない人は、今までいなかったから。
「・・・私も捜査官になってそれなりになるが様々な事件にも遭遇する、奇怪な怪盗やら、連続失踪事件やら、な?」
ふるふると首を振ると、今度こそ捜査官は待合室から出て行きました。
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scene17
警察署の当直室、眠っていると不思議な声がして、私は目を覚ましました。
「・・・しーっ」
いつの間に入ったのか、窓の前には、これまで見たことないような、不思議な美人が立っていました。
「・・・初めまして、可愛い『ダークプリースト』さん」
ダークプリースト、初めて聞いた単語に私は首を傾げます。
「そうね、あなたは何も知らないのよね」
そう呟くとその女の人は、背中からばさりと白い翼を広げました。
「私はリリム、魔王の娘、あなたと同じ魔物娘よ?」
そう言って、リリムさんは私に魔物娘について詳しく説明してくれました。
「こことは近いながら遠い世界、そこでサキュバスの魔王が誕生したの」
「魔王は平和を願い、数多の眷属を持ちながら人間と共に歩むことを考えた」
「そして魔王の影響で変化したのが魔物娘、あなたはどうやら魔物の瘴気を産まれる前から浴びてたせいで、産まれながら魔物娘に近い状態だったみたい」
リリムさんは私の特徴的な形の耳や妖しい色の瞳を見ながら微かに頷いて見せました。
「もしあなたが望むなら、あなたを完全な魔物娘に出来るけど、どうする?」
リリムさんの言葉に、私は自分のことがわからなくなっていました。
いきなり人間ではないと言われて、受け入れられるわけがありません、私は完全に混乱してしまいました。
「・・・おかあさんは、どうなるの?」
「貴方の母親は、私の知る限り、毒に浮かされ、結果として酷い裏切りをしてしまったみたい」
あんな良い
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