正悟の章



クルクシェトラの戦いが終わり、カルナは一人夜風を浴びるために王城から外に出ていた。


「・・・疲れた、わね」

すでにカウラヴァとパーンタヴァの戦いは終わり、和平交渉も済んでいる。

王位にはドゥルヨダナがつき、アルジュナたちパーンタヴァ兄弟が大臣役につくことで勢力の均衡が取られた。

夜空を見上げながら、カルナはクルクシェトラの戦いのことを思い返していた。

あの戦いの後、結局インドラこと尸天は戻ってくることはなく、アルジュナとカルナの捜索も虚しく見つかることはなかった。

「・・・インドラ様、貴方は今どこにいるのですか?」


ため息を一つ吐き、王城に向かおうと踵をカルナ、その瞳には微かに寂しさが見え隠れしていた。


「・・・あなたが、カルナさん?」

王城へと至る門の前に、美しい女性が立っていた。

白い肌に真紅の瞳、生きているとは思えないような不思議な雰囲気を醸し出しているが、それも含めて美しい女性である。

「えっと、貴女は?」


「わたくしは光明妃スプンタマユ、種族はワイト、初めまして」

ワイト、その名前に覚えはなかったが、カルナは礼儀正しくスプンタマユに一礼する。


「私はカウラヴァのカルナ、初めましてスプンタマユさん」

突然の来訪者に警戒しながら、カルナはしばらくスプンタマユを見つめていたが、どうにも動きに敵意はない。

全幅の信頼は持てそうにないが、カルナをどうこうしようとする気はなさそうだ。


「インドラから聞いていた通り、聡明そうな方ですね」


「っ?!、インドラ様を、知っているのですか?」

スプンタマユ、何者かはさっぱりわからないがこの女性はインドラのことを知っているのか。


「インドラはこことは違う世界で、あなたの想像を絶する相手と戦い、王座についた、今ようやく貴女たちにコンタクトをとれるようになりました」



不思議な微笑を浮かべながら、スプンタマユは右手をカルナに差し出す。

「もし貴女がインドラとともにありたいならば、わたくしが貴女を彼の元に案内いたします」


こことは違う世界にインドラはいる、しかしカルナはずっと彼に逢いたいと思っていたのだ。


わずかな逡巡、カルナは軽く頷くと、一歩スプンタマユに近づいた。


「私を、インドラ様のもとに連れて行って下さい」


「そういうと、思っていましたわよ?」

スプンタマユはカルナの手をとると、ふわりと宙に浮かぶ。


「・・・あ」


戸惑うカルナ、彼女もまたゆらりと空に舞い上がると、ゆっくりと二人は上空に上がっていく。


「わたくしの娘婿、インドラは
#24521;利界、天雷都アマラヴァティにいますわ」


ゆらりと月が瞬く中、二人は、夜の闇の中へと消えた。







「う、ん?」


カルナが目を開くと、そこは眩しい光に照らされた庭園だった。


太陽に照らされた美しい庭園、幾何学模様に設置された花壇には手入れの行き届いた花が植えられている。


庭園の先には門がある、カルナは一つ頷くと、ゆっくりと先へと歩みを進める。


「カルナ?」


名前を呼ばれて振り返ると、そこには見知った少女がいた。


「アルジュナ?、何故ここに・・・」


「うーん、『クリシュナ』とかいう人に言われて、父さまに会いに」


なるほど、どうやらアルジュナも誰かに案内される形でこの庭園に足を踏み入れたらしい。


「やっぱカルナも来たんだね?」


「・・・それは、インドラ様はあの戦いからずっと行方不明だったし」


ふう、とカルナは息を吐くと、美しい庭園をしばらく眺めた。


かちり、と扉が開いて、庭園に至る門が開かれた。


「・・・久しぶりだな、カルナ、アルジュナ」


同時に二人が振り返ると、そこにはカルナが想い焦がれた人がいた。


「・・・インドラ様」


その外見は殆ど変わってはいない、しかしその身にはカルナのものだった黄金の鎧を身につけ、左腰に宝剣を帯びている。


中でも特殊なのは左手に巨大な、黄金に輝く金剛杵を持っていることだろうか。


「本当に久しぶり、ですね、インドラ様」


「父さま〜!」


すぐさまアルジュナは尸天に駆け寄ると、地を跳ねて胸元に抱きつく。


「おっと」


危うく後ろに倒れそうになる尸天だが、すぐさま態勢を立て直し、抱きついてきたアルジュナの頭を撫でる。


「はは、相変わらずのようだな、アルジュナは」


じっとカルナは尸天を見つめていたが、やがてふるふると首を振り、嗜めるようにアルジュナに向けて口を尖らせる。


「・・・アルジュナ」


「むふふ、もしかしてカルナも父さまに抱きつきたかったりするかんじ?」

意地悪そうにニヤニヤと笑うと、アルジュナは尸天から離れた。


「い、
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