第四話「屍龍屍人」





倭文と桔梗は互いの得物を構えつつ、注意深くカミツレの動きを伺う。


落武者である桔梗は生前から剣術の修行を積んだ生粋の侍、そんな人物でもカミツレには勝てないならば倭文には勝ち目がないだろう。


「・・・(しかし、ここで下がるわけにはいかない)」


カミツレを放置しておけば間違いなく桜都はなんらかの被害を受けてしまう、さらに言えば彼女の思考は本能以外の何物でもない。



「・・・(放置しておくにはあまりに危険極まりない)」


「なんだ?、来ないならばこちらから行くぞ?」



カミツレはにやりと淫靡に笑い、地を蹴るや否やまっすぐ倭文に襲いかかる。



「っ!、早いっ!」


すぐさま倭文は鉾を返してカミツレの一撃を防いだが、あまりに強力な攻撃に、後ろに仰け反る形となる。



「シトリー殿っ!」


雄叫びをあげながら桔梗は無駄のない動きで、カミツレに斬りかかる。



「ふんっ!、これしき・・・」


しかしカミツレの実力は、桔梗の予想を遥かに上回っていた、ドラゴンゾンビは身体を返しながら翼を広げ、強風でもって落武者の少女を吹き飛ばす。



「つあっ!」


吹き飛ばされながらも、なんとか桔梗は空中で受け身をとり、反対側の樹木を蹴り、そのままカミツレに斬りかかる。



「くっくっくっ、あきらめが悪いな」


桔梗の一撃を簡単にかわして見せると、カミツレは翼を広げて上空に飛び上がり、倭文を見つめる。



「これで実力の差はわかったはず、さあ大人しく投降し、我の物になるが良い」



「・・・断る、私にはやらねばならないことがあるのでな」




カミツレめがけて鉾を投擲してみるが、ドラゴンゾンビは難なく軌道を見切り、左手で鉾を受け止めた。



「そうか、ならば・・・」



鉾を投げ捨て、カミツレは高速で回転しながら上空より倭文に迫る。



「力づくで我が手に収めるっ!」


「っ!」


ふわりと倭文はカミツレの一撃を飛び上がってかわすと、くるりと回転しながら彼女の肩に手をつき、後ろから抱きすくめる。


「むっ!」


「『正拳波紋(ナックルビーム)』っ!」



瞬間、倭文の右拳から無数に放たれる弾丸のような形状の必殺光線。


「ぬおっ!」


さしものカミツレもこれには無傷ではいられない、大きく跳ね飛ばされ、近くの木の幹に頭をぶつけた。



「・・・やった、のか?」


もうもうと砂煙が立ち込める中、倭文は地面に手をつき、息を吐く。



「手応えは確かにあったが・・・」



「馬鹿、よく見てっ!、来るわよっ!」



攻撃をかわしながら戦いをじっと見ていたスズシロからの悲鳴じみた声に、慌てて倭文は地面に向かって頭を下げる、その刹那。


すさまじいドラゴンブレスが倭文の背中をかすめ、一瞬にして背後の樹木をドロドロに溶かした。



「ふっ」


短い声とともに煙が失せ、そこには一切の損傷がない、無傷な姿のカミツレが膝をついていた。



「く、くっくっくっ、くははははは、なるほど、なかなかやってくれるではないか」


カミツレはゆっくりと立ち上がると、嗜虐的な笑みを浮かべ、右手を顔の前にかざす。



「ゾクゾクするぞ、貴様のようなやり手を我のものにして、好き勝手に出来るかと思うとな」



ペロリと唇を舐めるカミツレ、どうやら本格的に倭文はロックオンされてしまったらしい。


「くっ、攻撃さえ当てれば良いと思っていたが、状況を著しく悪くしてしまったようだ」


どうやら入れてはいけないスイッチを入れてしまったのか、カミツレは全身から妖しげなオーラを放ち、完璧にヤル気である。


「シトリー殿、ここはそれがしがなんとかカミツレを止める、あなたはすぐに逃げてください」


刀を構えなおし、桔梗は両眼に決意を漲らせてカミツレの前に立つ。



「・・・日向守」


一瞬の逡巡、すぐさま倭文は首を振るうと、両拳を構え、カミツレを睨みつける。


「シトリー殿っ!?」



「・・・彼女を、十秒、否、五秒だけで良い、動きを止められれば、勝ち目はある」



実際十秒でも時間は不足しているかもしれない、だがあれだけの力を持つカミツレを拘束出来る時間は少ないだろう。


「・・・必ず、勝てるのですか?」


「間違いなく、勝てなければ腹を切っても良い」


桔梗は倭文の一度だけ頷くと、そのままゆっくりとカミツレの前に立つ。



「ふっ、その雄は渡さないぞ、我が骨の髄までしゃぶり尽くすのだからなっ!」



地を蹴り、桔梗に突撃するカミツレ、だが落武者の少女は、あろうことか刀を投げ捨て、右手を盾にした。




「・・・むっ!」


カミツレの爪が桔梗の右手に突き刺さり、露出した骨に絡めとられる
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