どういう魔物娘かよくわからないが、リリアンことリリーが協力してくれることになり、倭文は早速翌日、教会の隣にある校舎の見学に出た。
「元々資産家が建てた校舎らしいですわ」
荒れ果ててはいるが、基礎工事がしっかりしているのか、校舎は少し掃除すればまだまだ使えそうである。
「なるほど、かなり教室があるようだね」
教師はまだ倭文一人しかいない、まあしばらくは少数の教室になるだろうが。
「あら?」
校舎内部にある図書室、そこで何やら人の気配がした。
「・・・む?」
部屋の隅にある脚立に腰掛け、そこには一人の魔物娘が本を読んでいた。
死人のように血の気のない肌に、生気のない瞳、間違いなくアンデットだ。
「リッチ、ですわね」
リリーは倭文に先んじて図書室に立ち入ろうとしたが、リッチ少女はこちらを見るや否やいきなり本を閉じ、隅のカウンターに隠れてしまった。
「あっ!?」
「ははっ、人見知りする女の子だな」
リリーの肩に手を置いて、倭文は悠々と図書室に入り、目当ての本を見つけ、カウンターに進む。
「・・・ぁ」
カウンターの下で震えていたリッチ少女に微笑み、倭文は本を差し出す。
「借りても良いかな?」
しばらくリッチ少女は倭文と本を交互に見ていたが、やがて頷いた。
「ありがとう」
短く呟くと、倭文は部屋から出ようと扉に手をかけた。
「その本、読む、の?」
か細い声、振り向くとリッチ少女がカウンターから顔を出し、こちらを見ていた。
「ああ、私は文化人類学が専門でね」
「・・・そう」
短く呟くと、リッチ少女は軽く手を動かし、いくつかの本を浮遊させ、倭文の前に集めた。
「私に?」
ふわふわと浮かぶ本を倭文が慌てて受け取ると、リッチ少女は満足そうに頷いた。
「リュシアンは、私も読んだ、これは、私の、おすすめ」
「そっか、大切に読ませてもらうよ」
感情の起伏は相変わらずわかりにくいが、倭文はリッチ少女がなんとなく笑ったかのように見えた。
「・・・さすがですわねシトリー、いきなり一人攻略なんて・・・」
本を抱えながら歩く倭文の後ろに従いながら、そんなことをリリーは呟く。
「攻略?、なんのことだ?」
「・・・まあ、なんでも良いですわ」
あのリッチ少女の他にも、校舎内部には魔物娘がいるのだろうか?
「シトリー、この街は先の飢饉で死人が大勢出ていますわ、わたくしたち以外の魔物娘はアンデットと考えるのが自然ですわ」
アンデットか、死してなお現世にとどまる、それほどの未練があるのか、あるいは・・・。
「・・・シトリー、そのまま歩きながら聞いてくださいまし」
ヒソヒソとリリーは、思考の中にいた倭文にこっそりと話しかける。
「誰かつけてますわ、この感じ、間違いなくアンデットですわね」
まさか先ほどのリッチ少女か?、自然な動作で倭文は懐から鏡を取り出すと、こっそり後ろを確認してみる。
「・・・ふむ」
確かについてきている、黒い装束に黒い髪の地味ないでたちだ、もし両眼の紅い異形に気づかなければアンデットと視認しなかったかもしれない。
「・・・妙ですわね」
何やら呟くリリーだが、倭文は足を止め、後ろを振り向いた。
「そんなところにいないで、私と話しをしないか?」
優しく声をかけたつもりだったが、そのアンデット少女は全身から汗をだらだらと流し、そのまま走り去ってしまった。
「ふむむ、教師というのも難しい・・・」
「シトリー、いえ、何でもないですわ」
何かをリリーは言おうとしたようだが、やはり何も言わずに歩行を再開した。
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夜になると、倭文はリリーを教会に残し、ランプ片手に桜都の大通りを歩いて見た。
かつては栄華を誇ったであろう都も、今や見る影もないほどに寂れ、まったく人の気配はない。
そういえばリリーはアンデットがどうと言っていたな、倭文はランプを墓場へ続く道に掲げた。
「ふむ、不気味だな」
墓場への道は薄暗く、何やら怪しげな鬼火も見えそうな雰囲気である。
腰まで伸びた草をかき分け、やっとこさ墓場まで辿り着くと、倭文はランプを地面に置か、周りを見渡した。
「死者の眠る墓場、か」
そうつぶやく倭文だが、彼は自分をじっと見つめる視線を感じていた。
「・・・妬ましいわね」
ふわふわと墓場の奥から、まるで西洋のカンテラかランプのような足を持つ幽霊が現れた。
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