「ふはははは・・・・、我輩は立花木工助定満、最強の侍になる男であーる」
武芸四門はジパング随一、軍学に優れ、ありとあらゆる知識も備えた、天下一とならんがために神がお造りになられたかのような存在である。
「つまり我輩が天下一となれぬ道理はないのであーる」
澄み切った空の下、広々とした荒地が広がる中で青年が一人高笑いをしていたのだが、いきなりごちんと何者かのゲンコツが頭に炸裂した。
「ふざけたこと言ってねーで仕事しろ仕事っ」
ここはジパングのほぼ中央にある水穂国の北方に位置する蝦夷地方。
現在定満と名乗る青年は、蝦夷の未開拓の土地を切り開くために、こうして日々重労働に従事している。
立花木工助定満、先ほど彼自身が言ったセリフは、ほとんどが外れている。
まず彼は侍ではなく貧しい農家の出身であり、こうして蝦夷の開拓団に参加したのも貧しい家計をなんとかするためである。
次に彼は貧しいが故に、まとまった勉強時間も取れずに、知識を納めているとは言いづらい。
読み書きくらいは問題なくこなせるものの、手紙や文章を構成するのは苦手、しかも字が並外れて下手なために、誰にも読んでもらえない。
要するに可もなく不可もなく、よくいる農民というわけだ。
しかし、彼の先ほどのセリフでは、当たっている部分もあった。
武芸四門の内、槍、弓はとんと出来ないが、幼い頃から農仕事のために馬を引いてきたため、乗馬技術に関しては武士に勝るとも劣らない。
さらには仕事柄夜盗から畑を守るために剣術を旅の武芸者から学び、目録ではあったがそれを我流で磨き、はたから見れば喧嘩か、叫び声を上げながら棒を振り回しているようにしか見えないものではあるが、剣術も納めた。
学問に関しては確かに字こそ下手ではあるのだが、文章を書いてみると、驚くことに誤字脱字は一切ない。
貧しいために学問の機会には恵まれなかったが、時として貴族の子弟が捨てた本や、反故になっていた紙などを、それこそ手垢がまみれるくらいにまで読んだため、自然とそのような技術が身についたのだ。
学問に王道なし、つまり彼は貧しいが故に努力をし、貧しいがために普通は会得し得ないことを会得したのだ。
「ちょっとふざけただけなのに、話しのわからぬ班長であーる」
ぼそりと言いながら定満は鍬を手に、硬い地面を少しずつならして、種を植えられるようにしていく。
汗をぬぐいながら空を眺めると、はるか頭上に輝くものがちらりと見えた。
「なんであるか?」
最初は星か何かかと思ったのだが、よく見ると微かに動いている。
「不思議であるな、かようなものがいるとは」
よくよく正体を確かめてみようと、背伸びをするようにぐっと背中を反らし、上空を見上げてみる。
よく見ると、それは鳥のような形状なのか、なしかに羽ばたきながら動いている。
さらに輝いていると思っていたが、まるで雷電のように時折、光を周りに放出しているようで、形からして後ろの部分には雷の尻尾のようなものも見てとれた。
「不思議である、謎である、気になるのであーる・・・あべしっ」
またしても班長のゲンコツが定満に炸裂した。
「定満っ、サボるなよっ」
「ち、違うのであーる、あそこにおかしな鳥がっ」
怒り心頭の班長に言い訳しようと定満はあたふたと手を振りもう一度空を眺めてみて、唖然とした。
「鳥なんてどこにいんだよ?」
輝く鳥は、影も形もなかった。
「お、おかしいのである、さっきまでそこに・・・・」
「定満、お前疲れてんのか?」
とうとう班長は同情するかのような視線で定満を見始めた。
「ち、違うのである、我輩は疲れてなど・・・」
「すまないな、お前がそんなになるまで疲れてることに気付いてやれなくて・・・」
班長はぽんぽんと定満の背中を叩くと、いくばくかの金子を渡した。
「少し休んでこい、体調がしっかり回復してからまた再開しろ」
定満が何か言おうとしているのも聞かずに、班長は背を向けてどこかへ立ち去っていった。
「・・・空が青いのであーる」
無理やりではあるが暇をとらされたのだ、定満は他に何か仕事をやろうかと思い蝦夷の南方にある街を目指した。
南方には周辺を統括する五角形の城があり、その城下には開拓団本部や様々な店を擁する巨大な街があった。
「何やら騒がしいのであーるな」
街はいつも賑わうものではあるが、今回はそればかりではなく、甲冑を纏った侍やら、弓を担いだ戦士など嫌に戦装束の人間が多かった。
「これはどうなっているのであるか?」
近くを通りかかった鎧姿の老剣士に定満は話しかけた。
「この
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