第二十話「鈍色の鋼鉄」





衝撃的な襲撃から一夜明け、イドは宿舎で目を覚ました。


結局襲撃者を送り込んだ者がいる場所を特定はしたが、帽子を置くだけにとどめ、帰ってきた。



「いよいよ、入団式か・・・」



入団式にはイドの他に何人かの兵士もおり、レスカティエの勇者代表から兵士の証である紋章を受け取ることになっている。



『のう緯度、この入団式に出てくる勇者からサイン貰っといてくれんか?』



「・・・すまん妹喜、話しが見えんのだが?」


適当に流しながらイドは制服に着替えると、入団式が行われる広場に向かった。







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レスカティエ聖騎士団広場、そこにはすでにたくさんの兵士がおり、正面に備え付けられた壇を見上げている。


壇上には何人かの高官が座り、その後ろには厳しい十字架が掲げられている。


「(やはり宗教国家なのだな・・・)」


壇上に座る高官も、みな高位司祭の装束を身につけ、紋章も高い地位を示す立派なものだ。



『(うむ、じゃがあのポローヴェのようなスラムを見たであろう?、あれを忘れぬようにしておれ)』


妹喜の言葉に頷くと、イドは視線を正面に戻し、壇上に上がる美少女の姿を目視した。



「・・・あの娘は」


煌めく銀髪に、清楚可憐な顔立ち、良家の子女を感じさせる気品に満ちた立ち居振る舞いだが、動きは一流の剣士のように隙がない。



『(うむっ!、ウィルマリナ・ノースクリムじゃっ!)』



よっぽど嬉しいのか、パタパタと尻尾を振る妹喜、イドは壇上にてなにやら話しているウィルマリナを見て目を細めた。



「(ウィルマリナ・ノースクリム、か)」



当たり障りのないウィルマリナの言葉が終わると、いよいよ新任兵士らへの紋章授与となる。



イドも新任兵士の一人として、名前が呼ばれるのを待つ。


「・・・次、ユーミル・スティルスターフ」


全身マントで包まれた大柄な男が壇上に向かっている。

二メートルはあるだろうか、なにやら歩くたびにぎしぎしと金属のような音がしている。



「・・・ユーミル・スティルスターフさん」


ウィルマリナが紋章を渡そうとしたその刹那。


ユーミルのマントが一部破れ、巨大な鉄球が姿を見せた。



「っ!」



驚くウィルマリナ、ユーミルは右手で握った鉄球を、その鈍重な見た目に反して素早く振り下ろしたのだ。



だが、ウィルマリナはすぐさま身を返すと、床を蹴り、後方へと下がった。




爆音のような音が轟き、壇は粉々に砕け散ったが、ウィルマリナは即座に動き、壇上の高官を逃すとともに、自分も射程から逃れた。



「・・・ふふっ、今のは挨拶代わりだ、ウィルマリナ・ノースクリムよ」



ユーミル、否正体不明の襲撃者はマントを脱ぎ、その全身を晒した。


身体は一部の隙間もなく鋼の装甲に覆われ、悪魔のような見た目の兜の奥から禍々しい橙の瞳が覗いている。



「何者ですか?」


剣を引き抜き、ウィルマリナは正面に構える。


「我が名は鉄鋼参謀、『黄金旅団』を率いる改造魔人、貴様を葬り去る」


瞬間、またしても鉄球を振り下ろす鉄鋼参謀、先ほどとは比べものにならないような速度だ。


「ちっ!」


しかしウィルマリナは魔法で腕の力を強化すると剣の一振りで鉄球を弾いた。


「ほう、なかなかの判断力、伊達にレスカティエ最強は名乗っておらん、か」


楽しそうに笑う鉄鋼参謀、ウィルマリナは剣を構えなおし、睨み据える。


「無謀ですね鉄鋼参謀、貴方が何者でも、このレスカティエの真ん中で堂々と攻め込むとは・・・」



「ふっ、貴様ら矮小なる勇者が何人集おうが、我の敵ではない」



「その矮小なる勇者に敗れるのが貴方です」


瞬間、足を強化し、鉄鋼参謀に斬りかかるウィルマリナ。


「ふむ、まあまあの速度だ」


切り込まれた一撃により、ウィルマリナの攻撃は鉄鋼参謀の頭に直撃した。


「っ!、馬鹿なっ!」


だが、ウィルマリナの剣は、鉄鋼参謀の兜に命中するや否や、真っ二つに砕けた。



「くはははは、我が前に攻撃は無力、いかなる攻撃もこの鉄鋼参謀には通用せんよ」



瞬間、鉄鋼参謀はすさまじい拳打をウィルマリナに叩き込む。


慌てて魔法で防御するウィルマリナだが、軽減してもなお、途方も無い一撃が彼女を吹き飛ばした。



「がはっ!」


「死ねいっ!、ウィルマリナ・ノースクリムっ!」


続いて弾丸のように鉄球が放たれ、ウィルマリナに襲いかかる。



まさに万事休す、だが鉄鋼参謀の鉄球は、突如として放たれた炎の弾丸により、微かにずれた。

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