第十九話「レスカティエ聖騎士団」






「・・・ここが、次の世界か」


緯度が出たのは、くたびれた教会の脇に建てられた納屋のような場所。


教会の周囲にはたくさんのバラックが立ち並び、ポローヴェのスラム街を思わせるような雰囲気だ。



「妹喜、ここはレスカティエ教国であっているのか?」


緯度は肩に乗る妹喜に問い質してみるが、彼女はすぐさま首肯した。



『うむ、間違いなく、教団国第二位の軍事力と勇者の産出、主神教団の切り札とも言うべき国じゃな』



にやにやと妹喜は告げたが、緯度にはそれが信じられなかった。


それほどまでに豊かな国ならば、ここまで酷いスラム街はないはずだ。


『さて、緯度、今回のお主の役割は?』



やはり妖しく微笑む妹喜、彼女はどんなバックグラウンドの記憶を緯度が持つのか、察しがついているようだ。



「今回はディケンズがつかない、ただの『イド』、つまるところは氏姓定かでない一市民というわけだ」


イドの記憶の中では、どうやらレスカティエに長いこと暮らしていたらしく、知り合いもいるようだ。



『のう緯度『ウィルマリナ・ノースクリム』という名前は知らぬか?』



「・・・どうやら私の両親は彼女の家で働いていたらしい、幼い頃面識があったようだ」


クスクスと楽しそうに笑う妹喜、イドは何度か首を振るった。


「とにかく私は今日、レスカティエ聖騎士団の入団試験を受けるらしい」


貧しい市民が唯一国の保護を受けられる兵士、イドはどうやらそれを願ったらしい。



「すまぬが、そこのお方」


イドのすぐ前に、襤褸を纏い杖をついた一人の老人がいた。


髪は全て白く染まり、豊かに蓄えられた顎髭も白いものだ。

外見はホームレスか浮浪者にしか見えないにも関わらず、その瞳は凛としており、跪きたくなるような力が宿っていた。



「レスカティエの中央街に行きたいのだが、案内してくれぬか?」


「私もそちらに行くつもりでした、お供致します」


とにかく老人をそのままにしておくわけにはいかない、イドは彼の前に立って歩き始めた。









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「君は優しいな」



道を歩きながら老人はそんなことをイドに言っていた。



「レスカティエの街で暮らす者の中には神への感謝を忘れる者もいる、にも関わらず、君はこんな老人を助けてくれた」



杖をつきながら老人はイドに付き従っているが、しっかりした歩調は、確かな経験と力を感じさせた。


「いえいえ、長く生きた方は国の宝ですから・・・」


イドの言葉に、老人は雷に撃たれたような表情で彼を見つめた。



「・・・そう、か」


「?、さあご老公、見えてきましたよ」


レスカティエ中央街、そこはたくさんの人でごった返し、中央には巨大な城が見えている。


「ふむ、ここまで本当にありがとう、君の善意は忘れない」


老人はそう告げると、首から下げていたロザリオをイドの首にかけた。


「君の名前は、なんというのかな?」



「イドです、私の名前はイドと申します」


老人はしばらくイド、と反芻していたが、やがて破顔した。


「そうか、私はドゥベ・ノーサンブリアと言う、お主に主神様の加護があるように・・・」


そう呟くと、ドゥベ老人は、人混みの中へと消えていった。


「・・・このロザリオ」


十字架の裏側には『Ephesos』と刻まれており、あの老人がエフェソ教会の人間であることを示していた。




「さて、では行こうか」


レスカティエ中央街にある聖騎士団の詰所に入ると、受付のカウンターにいた美女がこちらに顔を向けた。


「ようこそ、聖騎士団へ、入隊の相談だな?」


美しい相貌に引き締まったしなやかな身体つき、左目には眼帯が嵌められた女戦士だ。


「ん?、お前・・・」


女戦士はカウンターから立ち上がると、イドの前に立ち、しげしげと彼の体つきを眺め、腰に下げられた刀と拳銃を見た。


「・・・お前さん、ここに来る前に戦場にいたのか?」



「・・・いいえ?」


実際には流星のブレード、鷹ロイド、薔薇ロイド、アコニシンの武霊怒蘭など、様々な敵と戦ったが。



「ふうん、なんだかお前、滅茶苦茶強そうなんだがな・・・」


しばらく女戦士はイドを見ていたが、突如として壁に掛けられていたハルバードを引き抜き、攻撃を仕掛けた。



「っ!」


反射的にイドも刀を抜き、ハルバードを抑えたが、あまりの衝撃に、周りに振動が走った。



「・・・ほう?、このあたしの攻撃を捌くなんて、大したもんだな」


にやり、と笑う女戦士、ハルバードを納めるが、
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