「イドさん」
イドが待ち合わせ場所に行くと、もうすでにスピリカは待っており、じっと古びた教会を見つめていた。
「待たせてすまない、教皇の様子はどうだ?」
ちらっと教会宿舎の前を見るが、何人かの見張りしかおらず、灯りも教皇が泊まっているであろう部屋しか点いていない。
「すでに時刻は夜半課の時間、教皇聖下は今祈りを捧げる最中でしょう」
何やらスピリカが呟くと、その身体がふわりと空中に浮かび上がった。
「では始めます、まずは宿舎に忍び込むところからです」
宿舎の二階の一番奥の部屋、教皇はそこにいる、スピリカはそこまで行き、侵入するつもりだ。
「私はどうすれば良い?」
「はい、イドさんは私が失敗したときに備えて別ルートから侵入して下さい」
侵入ルートはもう一つ、廊下にあるダストシュートを逆に登り、教皇のいる部屋の前に行くというルートだ。
「わかった、無茶はするなよ?」
「はい、お互いに頑張りましょう」
互いに挨拶を交わすと、それぞれ侵入すべきルートの入り口へと向かった。
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教皇リノス二世は、不思議と風が強まったことに気付き、顔を上げた。
現在彼は祈りを終え、『聖務日課』を読んでいたところだったが、何やら不思議な気配に手を止めた。
「・・・誰か、いるのか?」
机に置かれていた教皇の冠をかぶり、その顔を隠すと、がたがたと揺れている窓に近づき外を眺めた。
「・・・むっ!」
外には空中を浮遊し、こちらに近づく少女がおり、カーテンを広げた拍子に彼女と目があった。
唖然とする少女、集中が途切れたためか、彼女は一瞬遅れて下に落ちた。
「なっ!、誰かっ!」
教皇の声に、廊下で寝ずの番をしていた護衛騎士が部屋にかけこんできた。
「失礼しますっ!、教皇聖下、どうかなさいましたか?」
「誰かは知らぬが、今浮遊していた人物が下に落ちた、怪我をしているかもしれん、すぐに手当てを・・・」
「はっ!」
短く応じると騎士は部屋から出て、下にかけおりていった。
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「しまった・・・」
地面の上で尻餅をつき、スピリカは空を見上げた。
先ほどまで灯りがなかった宿舎も、いまやあちこち光で満ち、窓越しに騎士が忙しそうに走る姿が見える。
とにかく今はこの場から逃げださなくては、そう思い立ち上がろうとして、足に激痛が走った。
「っ!」
どうやら落ちた拍子に足を捻挫してしまったらしい、これでは動くことができそうにない。
「スピリカっ!」
だが、そんな彼女のもとに駆け寄る青年がいた。
「イドさんっ!、どうしてここに・・・」
「貴女が落ちたのが見えて助けに来た、さあ、私の背中に・・・」
イドは素早くスピリカを背負うと、ゆっくり立ち上がる。
「いたぞっ!」
だが、どうやら護衛騎士に見つかったらしい、ばらばらと二人がいる場所に人が集まり始める。
このままでは確実に捕まってしまうだろう、とにかくここから逃げて再起を図らねば。
「・・・(いや、だめだ)」
教皇がここにいるのは行幸のため、もし期限が今日までならもう次の目的地へ旅立ってしまう。
となれば、これがスピリカが教皇に謁見するラストチャンスとなる。
やるしかない、イドは覚悟を決めると、スピリカを背負ったまま、宿舎めがけて走り出した。
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「何やら、騒がしいな・・・」
椅子に腰掛け、『聖務日課』を開いていた教皇だが、あまりに廊下が騒がしいため、またしても顔を上げた。
「き、教皇聖下っ!」
瞬間、部屋の扉が開き、何人もの護衛騎士にまとわりつかれた青年が部屋に入ってきた。
「・・・君は?」
「教皇聖下に、申し上げたき儀がございますっ!」
絞り出すように呟くイドだが、教皇の姿を見て気が緩んだのか、複数の護衛騎士に取り押さえられた。
「うぐうっ・・・」
「・・・ふむ」
教皇は冠の奥からしばらくイドと、その背中にいるスピリカを見つめていたが、やがて『聖務日課』を閉じると、口元を緩めた。
「手を離してやりなさい、彼らは私の友人だ、何か大切な話しがあるのだろう?」
諭すように護衛騎士に語る教皇、騎士らもそう言われては
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