「うわあ、か、可愛いなあ・・・」
一人の青年が、愛しい『彼女』の姿を眺めている。
彼の言う『彼女』は現在ビデオに映っており、産まれたままの姿で水浴びを行っている。
「可愛い、これは犯罪的に可愛い過ぎるぞ」
もしこの場に誰かがいたら確実に通報されそうなくらいに、今の彼は緩みきっていた。
彼の名前は十河神哭(ソゴウカミナ)、近くにある県立白山高等学校の二年生である。
成績は良くも悪くも平凡、突出してできる科目が、極端に出来ない科目の点数を補うくらいのもの。
部活動には所属していないながらも、幼馴染の父親が営む槍術道場に幼い頃から通っているため、すでに実力は免許皆伝の腕前。
見た目は悪くはなく、良くもなく、まさしく平凡そのもの。
そんな彼ではあるが、実は一つ、変わった趣味があった。
「はあはあ、本当にこの娘可愛いな」
彼の見るビデオに映っているのは人間ではなく、ニョロニョロと地面を這う可愛らしい蛇である。
そう、彼は無類の蛇好きなのであった。
いつからそうだったのかは、よくわからないし、ひょっとしたら最初からそうだったのかもしれない。
気がつけば彼は、蛇の魅力に取り憑かれてしまっていた。
というわけで、彼の部屋の本棚には蛇に関する本がたくさん並び、壁に貼り付けてあるポスターも蛇ばかり、しかも中には中世の頃に描かれたラミアやらリリスの絵画の複製画まであるのだから本格的に始末に負えない。
「おっと、もうそんな時間か」
時計を見るともう7時40分だ、早く出ないと遅刻してしまう。
「じゃあ、またな」
ビデオを切ると、荷物を背負い、彼は部屋から出て行った。
「おはようカミナ、今日もしけたツラしてるわねっ」
家から出た直後にいきなり話しかけてきた少女は六道沙耶。
神哭とは小学校から一緒のいわゆる幼馴染というやつである。
「おはよう沙耶、良い朝だな」
そう言って見せてから神哭はかるく欠伸をしてみせた。
「カミナ、あんた昨日は一体何時に寝たのよ?」
沙耶の言葉に、神哭はすぐさま答える。
「夜の一時だ、九時から『世界の蛇、秘境にて巨大な蛇と出会う』を見た後にやるべき課題を仕上げていた」
神哭の言葉に、呆れたように沙耶はため息をついた。
「本当にあんたってば、そんなことばかりよね、蛇なんかの何が良いんだか・・・」
沙耶の言葉に神哭は軽く肩をすくめて見せた。
そういえば沙耶はずいぶん昔から蛇のことは、文字通り蛇蠍のように嫌っていたが、一体どうしてなのかは神哭にはわかってはいなかった。
それ故、ついつい今回も感情的になってしまっていた。
「そうは言うがな、あのシンプルなフォルムにキラキラ輝く小さな瞳、地を這う状なんか到底言葉に表せないほどの魅力だぞ?」
「・・・あんたね、だいたいあんたは蛇ばっかりに気をとられないで、たまにはそばにいる可愛い女の子を大事にしたらどう?」
一瞬だけ幼馴染の表情が、何かを期待するかのようなものに変わっていたが、蛇のことで頭が一杯の神哭は気がつかなかった。
「そばにいる可愛い女の子?、誰のことだ?」
瞬間神哭は顔面に拳の直撃を喰らって近くの街灯まで吹き飛ばされた。
「あたっ、沙耶いきなり何を・・・」
抗議する神哭だが、殴ったとうの本人である沙耶は肩をいからせながら怒鳴りつけた。
「うっさいバカミナっ、死ねっ」
そのまま沙耶はダッシュで学校まで走り去っていった。
「まったく、何が癪にさわったのか、最近の若者はすぐキレる」
ゆらりと街灯に手をつきながら立ち上がると、神哭はここにはいない幼馴染み相手に悪態を吐く。
「やれやれ、何だってあやつは暴力をすぐ振るうのか、あれでは嫁の貰い手に困りそうだな」
釈然としないながらも神哭は頭を振るって気持ちをしっかりと切り替えると、神無とともに学校へと向かった。
このとき、神哭は気がつかなかった。
街灯の陰から不自然に鮮やかな色の蛇が神哭の様子を伺い見ていることを。
学校につくと、神哭は椅子に座り、一限目の授業の用意をする。
隣の席に座っている幼馴染のほうを神哭はちらっと見てみたが、向こうの方はまだ怒りが覚めないのか、ずっと窓の方ばかりを見ている。
早く怒りを納めていただかないことにはこちらとしてもいい気分はしない、それに万一忘れ物をした時に見せてもらえないのも困る。
「あっと、沙耶・・・」
「・・・何?、蛇と添い遂げる変態の神哭くん?」
変態などと言われてしまい、神哭はいささか閉口してしまったが、そこは男らしくスルーする。
「その、今朝は悪かった、蛇のことばかりで、君のことをあまり考えられず・・・」
おずおずと告げた神哭の言葉を聞いて、沙耶は深いた
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