部屋の先、そこには椅子に腰掛け、何やらビデオを見ている瑠衣がいた。
「・・・ルシファー」
遮那の言葉に、瑠衣はビデオから目を離さずに、ゆっくりとした調子で口を開く。
「来たんだねサナトお兄ちゃんにマユ、二人もこのビデオ、見ていかない?」
テレビ画面には何かの映画が映っており、興味深そうに瑠衣は目を細めている。
「別に大した映画じゃないよ?、よくある映画だよ、信心深さを自慢しながら、他所の神様に喧嘩を売る、そんな映画」
映画はどうやらクライマックスなようで、白人の男性が、石造りの神殿に火をかけ、爆破していた。
「生贄を求める神を否定したり、怪しげな祭祀の神を否定したり、挙句自分に手向かう全ての神を否定する」
瑠衣は椅子の肘掛けに置かれていたリモコンをとると、ビデオに向けた。
「どうして自分以外の考えを認めないのかな?、千差万別、たくさんの神、たくさんの考えがあってもいいはずなのにね?」
ビデオのリモコンを切ると、瑠衣は漆黒の翼を展開しながらゆっくり立ち上がり、二人に向かって歩き出した。
歩くたびにゆっくりとその姿は変わり、二人の数メートル前に来る頃には、堕天使らしい蠱惑的な姿に変わっていた。
「けどそれももうすぐ終わり、神は退場し、私たちが主役になる世界が来る、秩序も法もない、快楽に満ちた世界が」
「ルシファー、確かに主神のやり方はどうかと思う、だが混沌が必要であるように、秩序もまた生命に必要ではないか?」
遮那の言葉に、ルシファーはにこりと笑った。
「ふうん、サナトお兄ちゃんは魔物娘とは暮らしたくないの?」
「まさか、魔物娘は人間を遥かに越える魅力と色気を備えている、暮らしたくない者なぞいないはずだ」
そうではないのだ、魔物娘と暮らしながらもルールを守る、天使と共存しながらも自由に生きる、それが、バランスが肝心なのだ。
魔物娘と生きるからと言って、必ずしも退廃的に生きねばならないというわけではないはずだ、どんな生き方も自由、何が正しいか、正しくないか、どうしたいか、どうすれべきか、それは自分で判断するべきだ。
秩序にせよ混沌にせよ、誰かから押し付けられるようなものではないはず。
「・・・もし、サナトお兄ちゃんが、そうしたいと願うなら・・・」
ルシファーは全身からすさまじい闘気を放つと、右手に剣を引き寄せた。
「抗ってみて?、この私、明けの明星ルシファーに、それが人間としての可能性・・・」
「・・・(何だ?、ルシファーは何を考えている?)」
まるで遮那のコトワリを肯定するかのような、それにも関わらず、自分が障害(サタン)となり試すかのような、そんな雰囲気だが。
ルシファーが何を企んでいるかはわからない、しかし依然として彼女が遮那や真由に向ける強大な殺気は変わってはいない。
どちらにしても戦うほかない、遮那と真由は揃って身構えた。
「・・・行くぞ、真由」
「・・・はいっ!」
思えばカテドラルのある新京極で遮那は最初に真由を失った。
もう二度と、失いたくはない。
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「くっくっ・・・、ついに修羅人は堕天使ルシファーとの決戦に入ったか」
「どちらが勝ったとしても、最後に笑うは我々・・・」
「くっくっ・・・、せいぜい魔物との共存など、叶わぬ夢に酔うが良い」
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「・・・さあ、耐えて見せて?」
ルシファーは漆黒の翼を展開すると、全身からすさまじい闘気を放つ。
「さすがは明けの明星、生半可な覚悟では相対することすら出来ないか」
「遮那さま、私たちは半端な覚悟でここにいるわけではありません」
しっかりとした調子で頷き、その手に小太刀を構えてみせる真由、遮那もまた彼女に頷き返すと、両手を構えた。
「まずは、小手調」
ひょいっと軽い調子でルシファーは右手から凍気を放つ、おそらく彼女から見れば牽制技かもしれないが、その凍気により、周りの壁は一瞬にして凍りつく。
「まさに絶対零度、か、しかし・・・」
遮那は氷結無効の障壁を張り攻撃を防ぐと、隣にいた真由が、その隙をついて雷を放つ。
「ふうん、やってくれるじゃない」
電撃無効を張り、ルシファーは真由の雷を塞いで見せたが、素早く的確な動きである。
「やはりこのくらいでは隙は作り出せんか・・・」
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