第三十一話「明星」





そこに立っていたのは新京極で出会った少女、摧破瑠衣だった。



「はろはろ、久しぶりだね、サナトお兄ちゃん」



「摧破、瑠衣・・・」



瑠衣のその金髪に、どこかで見たことのある相貌、遮那は確信めいた口調で、瑠衣の正体を呟いてみた。




「・・・ルシファー」



「うん、そうだね」



にこりと微笑むと、瑠衣は背中から翼を展開し、その姿を美しい女性のものへと変貌させた。



外見は天使や魔物娘同様に劣情を催しかねないような妖艶な姿であり、双子の妹であるミカエルともよく似ている。



だが、その両眼はあくまで清楚だったミカエルとは異なり、むしろ男好きするような、不思議な魅力を放っていた。


ミカエルとの一番の違いはその翼、神秘的な雰囲気を醸し出していたミカエルら四大天使のものとは異なり、ダークプリーストのような漆黒の翼となっている。




まさしく堕天使ルシファー、堕落した明星、そのものの姿だ。



「それこそが私の名前、ルシファー、そう呼ばれてるわ」



グリゴリの頭が護衛もつけずに、わざわざ出向いてくるとは、何のつもりだろうか?



「サナトお兄ちゃんは、本当に良くやってくれた、ICBMを止め、四大天使をバッサバサ、おまけにミカエルすらも倒してくれたわ」


「・・・お前のためではない」


遮那のつっけんどんな言葉に、ルシファーはうっすらと微笑む。



「さあ、どうかな?、サナトお兄ちゃんの力は私が授けたもの、忘れたのかしら?」



確かにそうかもしれない、もしあの時ルシファーが遮那を修羅人に変えなければ、遮那も真由も死んでいただろう。



おまけに遮那はその後、何度も人間では勝てないような連中と争ったが、その都度生き延びてきた。


これも間違いなく、修羅人としての力に助けられた結果であろう。



火を授けた文化英雄プロメテウス、もしくは薬学の基礎を伝授した三皇神農、ルシファーは遮那にとっては文化英雄に等しい存在だ。



「理解した?、さあ、サナトお兄ちゃんがするべきことはあと一つ・・・」



すっ、とルシファーは遮那に向かって右手を差し出した。


「この手をとり、私と一緒に魔物娘の支配する混沌と享楽の世界を作ること、大天使ミカエルを倒したサナトお兄ちゃんには、その資格がある」



「・・・なるほど、それが私が修羅人となり、今日まで戦い抜いてきた意味、か」


しばらく遮那は瞳を閉じ、これまでの戦いに想いを馳せていたが、遮那よりも先に真由が口を開いた。



「堕天使ルシファー、貴女は思い違いをしています」



「どういうことかな?、マユ・・・」


明らかに心外としか言えないような口調でルシファーは真由を問い詰める、普通ならば物怖じするところかもしれないが、真由は表情一つ変えなかった。




「遮那さまは貴女が力を授けようが授けまいが、生き延びるために力を尽くす人です、貴女は遮那さまに力を授けたつもりでしょうが、違います」



瞬き一つせずに堕天使ルシファーが真由を見つめる中、ワイトの少女はそのまま続ける。



「遮那さまが生き延びて来れたのは修羅人になったからではなく、生き延びようとする意思と、己の理想を追求しようとする『コトワリ』に突き動かされた結果です」



「その通りよ」


真由に続いて、ウォフ・マナフも口を開いた。


「明けの明星ルシファー、サナトは人間であったときも常人を凌ぐ意思があった、修羅人になろうが、それは変わらないはずよ」



「ふうん・・・」


ルシファーは真由を見つめ、それからウォフ・マナフを一瞥し、最後に遮那に視線を向けた。



「瑠衣、否ルシファー、私は秩序も混沌も、神も魔王も併せ呑む中庸の『コトワリ』を願う、君とは並び立てない」



きっぱりとした決別の言葉に、ルシファーは満足そうに頷いた。


「さすがはサナトお兄ちゃんだね、魔王様が目をかけることはあるわ」


しばらくルシファーはうんうんと、何やら頷いていたが、ミカエルによく似た相貌で遮那を見つめ、再び口を開いた。




「けれど私も実現したい未来はある、魔物娘と堕天使たちの世界、人間との享楽の世界を作る」


ふわりと、ルシファーは飛び上がると、そのまま空間を歪めていずこかへと瞬間移動した。


ルシファーの姿はそのまま消え失せたが、どこからともなく、かすかに彼女の声が聞こえてきた。


『サナトお兄ちゃん、もしもお兄ちゃんの理想を実現したいなら、カテドラルで雌雄を決する、さあ、追いかけてきて?』



「・・・ルシファー」



短く呟くと、遮那は居並ぶ仲間たちを順々に見た。



「すまないみんな、もう少しだけ付き合わせてしまうが・・・」


「あー、
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