ヒビを割って現れたのは二人の魔物娘だった。
「赤伯爵、黒淑女、お姉様方・・・」
片方は真紅の髪に、まるで赤い蜥蜴を思わせるような杖を握った全体的に炎のような印象を受けるデーモン。
もう片方は黒いマントに、光彩の失せた薄暗い瞳、さらには髑髏の意匠を持つ冠を被った黒い印象のリッチだ。
「まったくアリスは、心配ばかりかけて・・・」
「まあ、見つかったから、よかった?」
否、そんな外見上の問題などどうでも良い。
この二人を見た瞬間に、遮那の背中を冷たいものが走った。
間違いなくこの二人は、とんでもない実力を持つ魔物娘である。
「そう警戒しなくても良いわよ?、私たちは貴方と戦うつもりはないもの」
アリスを抱き上げると、赤伯爵はにっこりと遮那に微笑を向けた。
「この娘アリスは魔物娘になって長いですが、随分眠っていたため、少しおかしな部分があるのよ」
赤伯爵に続いて黒淑女も頷く。
「それで、なんとかしようと思ったけど、別の空間に、逃げられてしまって、今まで、探せなかった」
ぺこりと遮那に頭を下げる黒淑女。
「本当に、ありがとう、修羅人、貴方のおかげで、アリスを見つけられた、お礼と言っては、なんだけど・・・」
黒淑女は懐から、怪しげな石を取り出した。
全体的に受ける印象は、手のひら大の、大きな黒真珠だが、玉の周りから目に見えるほどの魔力が放たれている。
「『道返玉(ちがえしのたま)』、これがあれば、死者を、アンデットにして、蘇らせることが、出来る」
このようなものを簡単に用意することが出来るとは、どうやらこのリッチ、単なるネクロマンサーではないようだ。
「?、どうしたの?、遠慮せずに、使って?」
黒淑女の手にある道返玉、遮那は迷いながら手にとった。
「死者は彷徨うよりも、眠る方が良いと、そう思う、たとえそれが、愛しい者だとしても・・・」
遮那の言葉に、黒淑女は静かに目を閉じた。
「自分の欲求に、正直に、なって?、貴方の、本音は、少し違う?」
どうやら、見透かされてしまったようだ。
遮那は冷や汗をかいたが、結局黒淑女は何も言わなかった。
使う使わないの判断は任せる、そう無言で伝えているかのようだ。
「それじゃあ、私はこれを」
赤伯爵が渡したのは、何やらシンプルなリストバンドだ。
中央に不思議な青い玉が嵌められている。
「それを使えば人間の姿に化けられるはず、きっと役に立つわ」
遮那がリストバンドを身につけると、不思議なことに、その姿は一瞬で人間のものに戻った。
「ただし、人間の姿に戻ってはいるけど、それはあくまで視覚上のみ、本当に人間に戻ったわけではないわよ?」
クギを刺す赤伯爵だが、遮那としてはそれだけで十分だ。
「それじゃあ修羅人、この扉を抜ければ貴方は元の世界に戻れるはずよ」
パチリと赤伯爵が指を鳴らすと、遮那のすぐ前に、一つの扉が現れた。
「じゃあね、お兄ちゃん、『またね』?」
アリスはこちらに手を振ると、赤伯爵らに連れられ、この空間から立ち去った。
「・・・行くか」
ここにいても仕方ない、遮那は目の前にある扉に手をかけ、元の世界へと回帰した。
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「・・・うっ」
まず目に見えたのは太陽の光だった。
「ここは?」
何処だろうか?、遮那の後ろには巨大な扉があり、奥にはぽっかりと洞窟が続いている。
ゆっくりと足を進めると、遮那はすぐさま違和感に気づいた。
彼の知る洛中界隈は、たくさんのビルがあり、常に天に向かって石の尖塔が立ち並んでいた。
だが、今は見渡す限りビルは一つもなく、それどころか空気も澄み渡っているような気がする。
「ここは、どこだ?」
確かに自分は京都に戻って来たのだろうか?、それにしては様子がおかしい。
否、良く考えればICBMが炸裂すればこんな長閑な情景は存在しなくなる。
キョロキョロと辺りを見渡してみて、遮那はすぐ近くに高台に使えそうな小高い丘があるのに気づいた。
ちょうど良いあそこに登って周りを見てみようと思い、遮那はゆっくりと高台に登っていった。
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丘の頂上には澄み渡った美しい湖がある、こんな美しい湖は中々存在しないだろう。
遮那は湖に手を浸すと、火照った顔を水に濡らしてみた。
冷たい水が肌
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