ボロボロではあったが、なんとか遮那と真由は大使館に戻ることが出来た。
警邏のウリアは最初こそ二人を見て訝しんでいたが、三津島撃破を聞いて、すぐさま医務室に案内した。
「大変でしたわね?」
医務室の主任、ラフェールは二人の怪我を手当てしながらそう呟いた。
紫金色の髪に、ウリアやミカよりも幾分幼く見える、そんな女性だ。
「・・・一歩間違えば、負けたのは我々だったかもしれない、三津島一佐はそれほどの相手だった」
正直勝てたのが不思議なくらいだ、遮那はホッと息を吐く。
「二人ともその献身的とも言える働きは天晴れ、きっと主神さまも見ておられますわよ」
主神さま、の言葉に遮那と真由は表情が暗くなったが、ラフェールは気づかなかったようだ。
「さて、手当はこれくらい、早くミカに三津島撃破を報告してあげなさいな、きっと貴方たちの帰りを首を長くして待ってますわよ?」
遮那と真由は黙って頷くと、ラフェールに一礼して、大使の部屋に向かった。
「三津島を倒したみたいね」
部屋の中央でミカは満面の笑みを浮かべ、二人を見ていた。
「本当に、ご苦労様」
瞬間、周囲の空間がピリピリと痺れたように感じた。
ふわりと、ミカが空中に浮かび、その背中から神秘的な純白の翼が生え、輝く赤と金色の鎧が現れたのだ。
その姿は、大使館のロビーにあった四つの肖像画のうちの一つ、四大セラフの筆頭、大天使ミカエルのものだった。
ただし、かすかに鎧は透けて見え、翼もまた同じ、もしかしたらミカの身体は大天使ミカエルが地上に現れるための仮初めのものなのかもしれない。
「あなた方の殊勝な心がけ、主神さまに代わってこの大天使ミカエルが褒めてつかわすわ」
ミカ、否大天使ミカエルは腰に下げた聖剣を引き抜き、遮那と真由の図上に祝福を描いた。
「・・・やはり、大使館は大天使の手にあったか」
確証があったわけではない、しかしそうでなければあれほどまでに大使館が、三津島撃破に拘る意味がわからなくなる。
「この地に私の姉を召喚しようとした三津島ら反乱軍はあなた方によって倒されたわ、けれども・・・」
ミカエルは大使館の窓から外の風景を眺め、沈痛な面持ちで剣を向けた。
「この京都は汚らわしい魔物たちが溢れてしまった、今すぐにでも浄化をしなければ数が増えてしまう」
浄化、幾度か聞いた言葉ではあるが、遮那の中には嫌な予感しか存在していない。
「ただちに『メギドの業火』を振り下ろし、この地を消し去る、それが神の御意思よ」
やはり、ミカエルは魔物をその地に暮らす人間ごと焼き払うつもりだ。
「待って欲しい、ならば京都に暮らす人間たちはどうなる?」
遮那の言葉に、ミカエルは眉をひそめた。
「無論共に浄化する、魔物に触れた人間もまた魔物に変質する定め、ゆえにこの地を闇に消し去る」
唖然とした表情で遮那を見つめる真由、だが遮那はなんとなく三津島を倒せばこうなるのではないかという嫌な予知はあった。
「・・・浄化をした後、世界はどうなるのですか?」
真由の質問にミカエルは微笑んだ。
「もちろん平和になるわ、差別も貧困もない美しい純化された世界、神の千年王国がこの地に誕生するわ」
「そして、そこには自由も人間の自主性もない、束縛された未来が待つ」
遮那の放った言葉に、ミカエルは顔色を変えた。
「当然よっ!、主神さまの創造物に過ぎない人間が、エデンの知恵の実を得たことからあらゆる罪は始まっている」
ミカエルの言葉は激しく、何を言ったとしても耳に入らなさそうだ。
「人間は主神さまのもとで無垢に過ごすのが一番幸せなのよ、現在の世界は知恵を得たが故に腐敗しきっているわ」
「だから人間を浄化するのか、自分たちが気に入らないという理由で・・・」
遮那は手斧を握り、隣を見れば真由も小太刀に手をかけている。
「人間も魔物も主神さまの創造物、その庇護のもとで、定められた秩序を享受していれば良いのよ」
ミカエルは剣を二人に向けると、剣先から紫と金色の炎を放った。
なんとかかわしたが、すさまじい威力である、一撃で大使館は半壊し、二人は衝撃で外に投げ出された。
「くっ!、さすがは四大セラフ、仮初めの肉体であってもこれほどの力を持つかっ?!」
遮那と真由はなんとか大地に着地すると、ふわふわと浮かぶミカエルを睨みつけた。
「これが『メギドの業火』、あなた方罪人を裁く天の光」
またしてもミカエルの剣に光が満ちる。
「ちっ!、もう一度あれを
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