迎賓館の廊下の果てには、何故か不思議な和風の扉があった。
「この先に、三津島が・・・」
扉の周囲に立ち込める重苦しい雰囲気、ゆっくりと、遮那は中へと足を踏み入れた。
扉の先は床張りに床の間がある、道場を思わせるような広い空間だった。
「来たか、そろそろだと思っていたよ?」
部屋の中央には日本刀を右側に置き、床の間に背を向ける形で正座する自衛隊の制服姿の男がいた。
「貴方が、三津島一佐?」
「いかにも、まずは座りたまえ、サナトくん」
三津島は、どうやら遮那のことはよく知っているようだ、まああれだけ派手に立ち回れば当然のことか。
「さて、真由くんのことでは当然私を恨んでいるだろうし、ジブリルのことについても納得は出来ないだろう?」
遮那が正座すると、かすかに三津島は微笑んで見せた。
「だが、誤解をしないでもらいたい、私は別に野心のままにクーデターを起こしたわけではないのだ」
なるほど、何らかの大義名分があるというわけか。
「・・・話しを伺いましょうか」
どのような大義名分が軍事クーデターを正当化し、三津島ら一部の自衛隊の離反を招いたのか。
「日本だけでなく、この世界はすでに神の使徒に支配されていると聞いたら信じるかね?」
神の使徒、まさか救世主神教団のことを言っているのか?
「否、救世主神教団は『彼女ら』の尖兵、下部組織に過ぎない、主神と呼ばれる神の使徒が世界を支配しているのだ」
主神、聞いたことのない名前だ、もしかすると聖書に出てくる契約の神や創造の神は、主神のことなのかもしれない。
「今この瞬間も、世界を純化せんとする使徒らの計画は進んでいる、それを阻止するためには魔物の力が必要なのだ」
三津島の言葉はにわかには信じられないことばかりではある。
しかし遮那にはその言葉を肯定するような不思議な予知の声のようなものが聞こえた。
「・・・そのために魔物を召喚し、軍事クーデターを?」
「そうだ、私はそう遠くない未来に神の使徒が世界を純化する計画を実行に移すことを知った『方舟計画(アークプロジェクト)』だ」
すでに使徒はこの今の堕落した現代社会に不満を抱いており、選ばれた民だけを生かして理想国家を作る計画を企てているのだという。
「そんな計画が実行されればどうなる?、大半の無辜の民は切り捨てられ、挙句待つのは神による管理社会ではないのか?」
確かに三津島の言う通りかもしれない。
いかなる基準で民を選ぶかはよくわからないが、切り捨てられた者は一体どうすれば良いのだろうか?
「いきなりこんなことを言われても困るだろう?、だが今この瞬間も魔物たちの力で辛うじて計画は阻止されている、もう猶予はないのだ」
右側に置いていた刀を、三津島は左に置き直すと、鋭い瞳で遮那を見つめた。
「サナトくん、どうか私に協力しては貰えないだろうか?、神の使徒による粛清を阻止して、魔物との世界を作るのだ」
しばらく遮那は黙っていたが、やがて口を開いた。
「仮に神の計画を阻止したとして、その後貴方は何を望むのですか?」
「私自身には願いはない、私は今この瞬間も神の使徒が我々人間を支配し、仮初めの自由を与えていることが我慢ならないのだ」
よく考えて欲しい、そう三津島は言うと、遮那と別れた。
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遮那が迎賓館のロビーに一旦戻ろうとすると、走ってくる真由とぶつかりそうになった。
「真由、やはり無事だったか」
にこりと遮那に対して微笑む真由、キョロキョロと辺りを見渡して、三津島がいないことを確かめる。
「遮那さま、三津島はいかがでしたか?」
「・・・その話しだが」
遮那は三津島が語った内容を、寸分違わずに真由に話した。
「なるほど、そんなことが・・・」
「聖書の言葉を借りるならば『千年王国(ミレニアム)』か、まあとにかくそんな計画らしい」
純化した世界と言うと、ノアの方舟を彷彿とさせるが、結局のところ神の都合に振り回されるだけなのだろうか?
「確かにこの世界がロクな世界でないと言う人もいますが、だからと言って性急すぎはしませんか?」
真由の言葉に遮那は頷いたが、仮に計画を止めても、今度は魔物たちの世界が来るのではないか?
野に解き放たれた魔物たちは数を増やし、すでに市内は無秩序な世界になろうとしている。
今度は、世界が混沌と享楽に
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