走る、走る、草原を駆けていく。
先ほどの術でばれているだろうし、リザードマンは鼻と目がきく。
遠距離戦では嗅覚が脅威となり(なんでも10キロ離れた場所の一滴の血まで嗅ぎわけるらしい)、接近戦では視覚が脅威となる(正確には視覚ではないらしいが)、なんでもリザードマンは人のように視覚だけでなく、わずかな熱も感じ取り、それで獲物がどこに隠れているのかを探るといわれる…それは蛇だというツッコミはなしにしてほしい…
それと天性の直感も持ち、生まれ持っての武人だ、その腕前は初めて剣をもった個体でも修練を積んだ騎士程の才があるという。人間がそれを養うのに莫大な時間を経験が必要となるのに、奴らは生まれつき持つのだ。身体能力も侮れない。
まったくもって厄介な連中だ、とにかく、俺の位置もばれているだろうし、いくら走ったところで奴らを巻くほど速くは走ることはできない、俺の姿が見えなくとも、奴らはにおいで俺を追うだろう。
ここで更にリザードマンという魔物について追記しておくと、
奴らは少し変わった魔物で、基本的に人を襲わない。だが、それは襲う相手を選ぶということで、全ての人間を襲わないということではない。
奴らは武人しか襲わない。この時点で俺はアウト。
ただの草原であったら、先ほどの術を行使したのはただの術者か旅人かもしれないと勘違いしてくれるかもしれないが、この草原は数刻前までドンパチをやってた場所だし、そんな場所をうろつく魔物なんて、どう考えてもドンパチに参加してた口だろう、そんな連中が偵察も兼ねて残党狩りを行うことはよくある、そして連中が目にするのはどう見てもさっきまで戦争やってた男が一人、戦闘にならないわけがない。
あぁ、もう一つ特徴がある、奴らは武人しか襲わないことからも分かる通り、武人気取りの魔物だ、他の魔物と同じように、獣(この場合はトカゲ)と人が混じり合ったような外見をしいるが人の武器で戦う、それも、どんな武器でも戦うことができるらしい。それと上記のように獣としての能力も持ち合わせている。まぁ、まとめると魔物としての武器はトカゲという獣の身体能力、人としての武器は武人としての才、と云ったところか。
そんな厄介な奴らと戦わなくてはいけない、否、戦うのだ。
本来ならば、普通の者なら恐怖によるパニックに陥るかため息の一つもこぼすのだろうが、知らず知らずのうちに口の端が徐々に上がってくる、―――やべぇ、なんだか楽しくなってきた。
相手は魔物、しかも武器を持ち、三体もいる。武器もどのようなものかもわからない。
対してこちらは人間が一体、手持ちの武器になりそうなものは腰に差している刀と懐にある8枚の『魔法紙』―魔法が才のない者でも即席で行使できる紙、ようするにこの紙があると枚数だけ魔法が行使することができる―と打ち取った時につかう敵の首を切断するための小刀が2本、それだけだ。
奴らは仲間を呼ぶかもしれない、呼ばれたら勝てないな。対して俺は仲間どころか生き残りがいるかどうかも分からない、この状況は孤立無援―まさに絶望的だ、あぁ、まったくドチクショウなまでに絶望的だ。
だが、楽しみでしょうがない―俺は人間のまともな心から、離れていく感覚がわかった。
どうやって倒そう、どうやって首を取ろう。
やつらの首をとるという結果を現実に導くために頭の中で現在の状況を考える、奴らよりも有利なこと、俺が劣っていること、奴らが知りえないこと、今の状況から導かれる奴らの合理的な状態、様々なことを思案し、ある作戦を思いつく。
これだ―笑みが更に大きくなるのを感じながら、走りながら、小刀を抜き左手首に当てると手首を切った。おもしろい程血が噴き出し、走ったところに不気味な道しるべを残す。その血を……だめだ、我慢できない
「っく、はっ………あははははははははははは」
もしかしたら敵がそばにいるかもしれないのに、大声で笑い出した。正直に生きることはいいことだ―団長の言った通りだと思う。
―――――――――――――――――――――――――――――――――――
グレシアは血のにおいが強くなったことが即座に分かった。
彼女は魔王軍に所属して今年で20年目を迎え(大体は夫ができると魔物は除隊してしまうため20年も軍にいるのはまれである)、参加した戦場は50を超える。
最近では年のせいか体が思うように動かず、現在は第一線での活躍は退いており、新人のリザードマンで構成された部隊で、新人の育成に力を入れている。
リザードマンは己で力を磨いていくように思われているが、実際は魔王軍に所属してある程度まで己の力を磨く者が多い。
そこまではいいのだ、魔物の力が上がっていくことは強い子孫を残せることにつながるが、年々入隊するリザードマンの質が落
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