駆ける、ただ、目の前の敵に向かって、駆ける。
幸いなことに、今度はウシオニも油断していたとみえ、もろに食らい怯んでいる。
一段と力強く左足で社の屋根を踏み込む。
それを、鍵として左足に仕込んでいた身体強化の呪術を発動
脚力を強化し、そのまま、跳躍する。狙うは、ウシオニの上半身
一般的に戦闘に際しては人間や他の生物と比較にならないほど、妖の皮膚は固い。鋼鉄、とまでは言わないが、妖の種類によっては、人が殴れば拳が砕け、刀や槍を持ってしても下手をすれば刃が折れる皮膚を持ったものもいる。 今戦っているウシオニはその類ではない、しかし、部位によっては、例えばウシオニの脚部の先、爪に当たれば刀剣の類ならば刃が折れるほどの硬度を持っているし、更に、毛が下半身を覆っている。
本来、毛の役割というのは防寒のためだけではなく、外敵の攻撃を軽減するものでもあるという、どのような役割において毛が生えているのかはわかないが、この場合、ウシオニの毛はまさに身を守るための鎧ともいえる。やっかいな代物だ。刃は毛によって本来の切れ味を発揮することはできず、衝撃を与える類の得物であろうと拡散されてしまう。まぁ、ウシオニを相手にする場合は返り血を浴びないようにする必要があるため、好都合ではなるが。
対して弱点となる部分もある。それが人の形を保っている上半身
別に上半身の皮膚が脆い、とかそういうわけじゃない、ただ器官が同じ造りか、似たような造りをしている。つまりは人間にとって弱点、胴体であれば中心線、肝臓、心臓、膵臓、肺など重要な臓器が集まっている所を狙えばいい。頭だったらもっと分かりやすい、この場合は耳の位置は違うが、どれも露出しているため、分かりやすい。
だから、狙うべきものは上半身、更に言うと、頭。頭は案外もろい、確かに頭蓋骨は硬い、しかし、硬い骨に守られた中身ほど脆いもの。まともに食らえばどんな化け物だろうと、その後の戦闘などまともにできない。うまくいけば一撃で決着がつく。
体に巻きつけるように構えた左腕に力をためる。
まだ、ウシオニの目は光に眩んでよく見えていない、いましか決めることはできない。
跳躍する力は切れていたが、落下の力が働き、ウシオニに向かっていく。
そして、巻きつけた左腕を、抑えていた力を解放するように、居合の如く、放った。
ウシオニの表情はかわらない、視力がまだ回復していないのか、依然としてうめき声をあげて、眼を腕で抑えている。だが、不意に顔を覆う手、その指と指の間から、視線が合う。そして、
―――――――笑った。
!!!
最初から、見えてやがった。
つまり、この一撃は完全な失敗
だが、それに気付いた時には遅い、遅すぎた。
左腕はすでに放たれたあとであり、そして、それは自らの力のみで猛進する別の生物のように止まることは無く、その腕を、難なくウシオニは掴む。
しかし、甘い
左腕が固定されたことによって、術によって強化された脚力より生じた速度はすさまじく、腕を抑えられただけでは勢いは死なず、速度による力がつくられていた。その力を利用する。
そのまま、無理やり、固定された左腕を軸に空中で体ごと回転し、蹴りをウシオニの右側頭部に食らわせる。ベキリ、と少々不気味な音を左腕がたてたが、痛覚がないため無視する。
致命傷、とまではいかないが頭部に受けた衝撃に、少しばかり腕をつかむ力が弱まった。それを好機とし、抑えられていた左腕を力任せに解き、もう一撃を加えるために軽く構えを造り、放つ――
だが、
ドッという衝撃が下腹に響いた。
そのまま、空中に投げだされる。跳躍する、といったことはあるが、空を飛ぶ、なんて感覚は久しぶりだった。
ドゴッ
「………ボォッ」
激しい背をうつ衝撃のあと、一拍を置いて肺の中の空気、全て吐き出す。
幸いにして、護符が幾分か効いていたらしい、境内の地面にたたきつけられたというのにこれだけで済んだのだから。
このまま意識が遠のきかけたが、なんとかそれを抑え、眼を開き、頭を上げ社の屋根を見る。と、ウシオニの巨体が俺を踏みつぶすために覆いかぶさらんとして跳躍する、そんな光景が目に入った。
横に飛び、構えを造る。一度、飛んでしまえば翼が生えている者以外で、方向転換などは無理である為、そこに目標物がいなくとも、俺が寝ていた場所にウシオニは辺りに砂埃を巻き起こしつつ、着地する。
即座に、砂塵の中から最初と違ってウシオニが突っ込んでくる。あの巨体でこの、着地から攻撃という二段の切り替えの速度は異常だが、あまりにも基本的な攻撃であるため、回避は――いや、受けて立つ
本来、師匠に教えられた戦法
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