中篇

 その日は、雨が止まなかったため、御舟さんに頼んでお嬢さんと夕食を食べた。
 無論、散らかっている僕の部屋ではなく、一番広い、御舟さんの掃除が行き届いた部屋で食べた。久しぶりに味のする食事だった。
 夕食を食べ終わる頃、雨がやんだのと、お嬢さんの着ていた山伏の服が着れる状態になったのが重なり、泊っていくように提案したが、さすがにそこまでご厄介になるわけにはいかない、とのことで帰って行った。


 次の日から、お嬢さんは僕の所に来て、西洋の呪術とも、我が国の呪術ともわからないものを学びに通ってくるようになった。それから毎日先生から頂いた本が大活躍で、先生から頂いた大量の本がこんな時に役に立つとは、思いもしなかった。

 僕はお嬢さんのことを「お嬢さん」と呼び、お嬢さんは僕のことを「先生」と最初呼んでくださったが、何だが僕が先生と呼ばれるのは、とてもこそばゆい気持ちになるため、やめてくれと頼むと、「坊ちゃん」と呼ばれた、でも、なぁ、いやいいけど、「坊ちゃん」か…

 御舟さんはお嬢さんが僕の学問を習いに来ていることにいい顔はしなかった。いや、その理由はお嬢さんが嫌いじゃなくて、僕が学んだ学問が嫌いなだけの話で、それを学びにお嬢さんが来るのが嫌なのだろう、かなり複雑な顔をしていた。

 でも、御舟さんはお嬢さんを気に入っているらしい。お嬢さんはほぼ毎日来るが、毎週月曜日は夕食をお嬢さんと共に食べることにしたのだが、その日はおかずが一品多い、しかも、その一品はお嬢さんが気に入ったり、おいしいといったおかずばかり、おかわりも勧めてくる。

 御舟さんとお嬢さんの仲もいい、この間なんてお嬢さんが料理を作れない、なんて御舟さんが知って、お嬢さんに料理を教えていた。
 ちなみに、その時お嬢さんが作った料理を食べたが、初めてにしてはうまい料理だった。


 僕がお嬢さんに呪術を教えるようになって幾つか分かったことがある。
 お嬢さんはとてもまじめで勤勉で、学習意欲が高い人(?)であることだ。

 そして、とても恥ずかしがり屋、前に妖怪のことが記された書物でカラステングはとても自意識の高い、時に傲慢でもある妖怪と記されていたが、お嬢さんが例外なのか、それとも書物の記述が間違っているのか分からないが、とても気難しい妖怪には見えないが、そこがいいところで、思いやりのある優しい、一般的にいっても、いい人だと思う。いや、いい妖怪か

 お嬢さんに呪術のことだけを最初は教えていたが、そのうち他の学問の書物にも興味を持ち始め、僕が分かる範囲で教えていた。
 しかし、そのうち僕でも教えられる範囲外のことを質問してくるようになったので、帝都にいる教師をしている友人に文をだして、聞くことが多くなった。
 僕も改めて発見させられることもあって面白い

 そんな日々を過ごしていたら、気がつくと梅雨は終わり、夏が盛り、衰え、秋風が吹く季節となっていた。

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 ぼんやりと、縁側に腰掛け、秋空を眺めていた。夏と比べ、雲が大分高い位置にある。

 御舟さんが庭で落ち葉を掃いている。しかし、庭の木々の葉が風に乗って落ち、はいたばかりの庭に積もる。

 「坊ちゃん、今日はお嬢さん遅いですね」

 一通り終わったのか、それとも休憩なのか、御舟さんが隣に腰掛け落ち着かない様子で聞いてきた。
 御舟さんもお嬢さんをお嬢さんと呼んでいる。

 御舟さんが落ち着かないのは、今日はお嬢さんが僕から学問を学ぶために来るのではなく、御舟さんと一緒に裏山でキノコ採りをするために来るのだ。

 無論、僕は留守番
 今日はおとなしく帝都の友人に頼んで送ってもらった本でも読んで、すごそうかな

 「…そうですね、いつもはもう来てもいい時間なんですけどね」

 ふと、御舟さんが僕の顔を見ていたので、なんです?と尋ねる。

 「いやぁ、坊ちゃん、お嬢さんが来てから変わったなぁ、としみじみと思ったとこですよ」

 御舟さんが笑う、子供の時よく二之助と遊んでいた時に見せた笑顔だった。

 「帝都から帰って来た時、一之助坊ちゃん本当に年寄りみたいでしたからね、こういってはなんですけど、若返った気がしますよ。前なら縁側に腰掛けるのは体調がいい日だけですけど、いまじゃ毎日縁側に腰掛けてお嬢さん来るの待ってるじゃないですか」

 確かに、帝都から帰ってから、比喩じゃなくて本当の意味で死にかけてるからな
 ちなみに現在進行形なところが悲しい

 懐から煙草を取り出して、火をつけ銜える。
 御舟さんは、僕が煙草を吸うのを嫌うから顔を曇らせたが、構わなかった。

 「…そうですね、希望は薬である、と、ある西洋の聖人の言葉ですが、その通りですね、
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