縁側に腰掛けて雨にうたれている庭の紫陽花を見ていた。
その日は朝から雨が降っていた。
まぁ、梅雨に入ったばかりだから仕方ないのだが、珍しく咳も、胸をしめつけるような痛みもなく、体調も普段に比べて大分楽であったのもあり、縁側に腰掛けて眺めることにした
庭に咲く紫陽花は庭の土のせいなのか花びらの色が薄い、図鑑に載っている紫陽花とはとても同じ花とは思えないほどだ
シトシトピッチャン・シトシトピッチャン・シトシトピッチャン
等間隔で雨音がする、この雨音をぼおとしながら聞く
シトシトピッチャン・シトシトピッチャン・シトシトピッチャン・シトシトピッチャン
気がつけば、眼を閉じてこの音に聞き入っていた、まるで寺の坊主の読経のような不思議な音で心地よい
ポト…………ポト………ポト……ポト…ポト
ふと、雨音に別な音が混じっていた。だが、あまりに雨音のたてる音が気持ちよく眠りかけていたため、その音が近くまで来るまで気がつかなかった
疑問に思い、眼を開けると、庭の紫陽花の中に山伏の格好をした少女が、年のころは16か17の少女がうずくまるように座っていた。
なぜこんなところに山伏がいるのか怪訝に思ったが、すぐに疑問が解決した
確かに少女の格好は山伏の服であったが、少女の腕には人間の腕ではなく、翼が、鳥の、この場合は鴉か?鴉のように漆黒の翼生えており、膝までは人間の物であったが、膝下から鳥の足で、関節が二つあった
なるほど、と変な表現で、しかも矛盾していたが、現在を表すのならば混乱しながらも納得した、という表現があっている。
この子は妖怪だ
まだ元気だったときに帝都で軍の鬼兵部隊の行進というものを見たことがあったが、近くで妖怪をみるのは初めてだった
たしか前に読んだ本の知識に合わせると、山伏の格好から天狗、それと黒い翼をもっているから、特徴などを総合すると、「カラステング」という妖怪だったかな?
今すぐにでも部屋の奥に戻って、先生にいただいた膨大な本の中から妖怪が事細かく記されている一冊を探し出し、確認したかったが、とりあえず目の前のことが先だった
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雨が降りしきる中、縁側に腰をおろしていた男が雨の中紫陽花のしたに座っているカラステングの少女を見ていた
男は立ち上がると、家の奥に消えた
しかし、すぐに戻ってくる。手にはわら草履と傘を持っていた
庭に男が出て、カラステングの元まで歩く
その歩きはとても遅かった、というよりも一歩一歩足を引きずるように歩く
カラステングはその引きずる音に気がつき、すぐに立ち上がろうとしたが男が手で制する
そして、カラステングの元まで来ると、傘の中に入れた
カラステングはあっけにとられた顔をしていたが、男は気にせずにカラステングの着ている山伏の服についた雫を掃って叩き、落とす
「…女の人がこんな雨の中いたら風邪ひいてしまいますよ、ささいらっしゃい」
男がそういうとカラステングの手(翼?)を引いて家の中に入れた、家に入る直前、カラステングは少し悩んだ顔をしていたが、おずおずと手を引かれ家の中に入って行った。
縁側の廊下に面している六畳一間の部屋に案内され、そこでカラステングの少女は木綿のタオルと男物の藍色の着物を渡す
「すっかり雨にぬれちゃって、なんとまぁ、私は奥の部屋で待ってますから、これに着替えて」
男はそういうと、ゆっくりとした動作で部屋を出ていく。少女は渡された藍色の着物を見て、しばらく悩んでいたが着替えることにした。
「まったく、一之助坊ちゃまのわがままにも困りますよ。さっき来た時は昼飯はいらないなんて言ったくせに、二刻も経ってから腹が減ったから、菓子とお茶をもってきてくれなんて」
50代前半の恰幅のいい女中が男に文句を言いながら8畳ほどの部屋に置かれた大木を丸々削りだしたかのような立派な座卓にお茶の入った急須と湯飲み、それと羊羹をのせた皿をおく
「いや、それに関してはすみませんとしか言えませんが、御舟さん、もう僕は今年で25です、一之助坊ちゃんはやめてくれませんかね?」
「なにをいってるんですか、私は坊ちゃんが赤ん坊の時からお世話してるんですよ。私にとっては坊ちゃんは坊ちゃんですよ」
男はため息をつく
たぶん死ぬまで坊ちゃん扱いはやめてくれないだろう、と一之助は結論を出しているので落胆のため息ではなかった
「…それと、一之助坊ちゃん?もう一回確認しますけど、本当に坊ちゃんおひとりなんですよね」
「えぇ、その通りですよ」
にこりと一之助は笑ったが、御舟は眉間に皺をつくり、立ち上がるとがらり
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