「やっべえええええ!! クソ寒ィイイイイイイイイ!!」
――ビュゴォオオオオオオ!!
轟音にも近い吹雪の中、母親妖狐は穴から少し顔を出した後、また潜りました。
「っべーよ、外。まじっべーよ!」
「かあちゃん、かあちゃん!」
「おうおうどうした、父ちゃんは今日、こんな吹雪ン中だし帰ってこれねえと思うぞ」
「ちがうの、めがいたいの!」
「あんだってぇ!? ちょ、ちょっと見せてみろ! ……ああ、目に雪が入っただけだな、多分」
「ゆき?」
「あー、見たことないか。ちょっと待ってな」
母親妖狐は辺りをキョロキョロ見渡した後、茶碗を持って外に出ます。
すると何かを茶碗に入れてきて、震えながら戻ってきました。
「これだよ、雪っていうのはさ」
「わぁー!!」
まだ上手く変化ができない、二本足で立ってるところ以外完全に狐の娘妖狐に、母親妖狐は茶碗の中を見せました。
中には雪が入っていて、娘妖狐は高い鼻をフンフン鳴らして匂いを嗅ぎます。
「におい、しないね」
「まあな」
「たべてもいい?」
「別にいいけど味しねーぞ」
娘妖狐は気にせずに、茶碗の中の雪を一気に口の中に入れます。
「つめたい!」
「雪だからなあ」
「あたまがいたいよぅ」
「あー、一気に食うからだ。しばらく囲炉裏にあたってな」
「はぁい」
そしてしばらくしてから、母親妖狐はまた外の様子を見に行きます。
すると吹雪は止んでいて、星灯りの綺麗な夜空が広がっていました。
「もう大丈夫だ。ほれ、綺麗だろ」
「すごーい!!」
「っとと、あまり遠くに行くなよ!」
「はーい!!」
母親妖狐からあまり離れはしませんが、はしゃいで雪の中を飛び回ります。
ですが、娘妖狐はまた顔をしかめて戻ってきました。
「今度はどうした」
「おててがちんちんする」
「ちんっ……あ、そっちな。多分しもやけだな……」
一瞬困惑しましたが、娘妖狐の肉球の手は少しながら腫れています。
どうやらはしゃぎすぎて、思わず草履の穿いていない手も使って、走ってしまったんでしょう。
しばらく考え込んで、
「どうする? 雪、溶けるまで家の中にずっといるか」
「や! ゆきでもっとあそびたい!」
「困ったなぁ。手袋作ってやりたいけど、アタシ、裁縫なんざやったことないし……。街には近づきたくねえし」
母親妖狐達の棲んでいる場所は、山の麓にある穴なので、近くに店はありません。
しかも近くの町は妖怪嫌いの人間たちが多く住んでいて、とても気軽に行ける場所ではありません。
「……仕方ねえなあ」
そう言いながら、母親妖狐は自分の着物の懐から百銭束を二つ取り出しました。
すると娘妖狐を山の方へ向かせます。
「いいか、山奥に小屋作ってるバk……頭がちょっと可哀想なウシオニの『ゆずな』っていう裁縫の得意なウシオニがいるんだけどよ」
「うしおにさんの、ゆずなさん」
「そうそう。そいつんとこまでちょっくら行って、手袋買ってこい」
「うん!」
「ちょ、ちょ、ちょっと待て!!」
「ん?」
母親妖狐に止められ、娘妖狐は首を傾げます。
「手ェ出せ」
「うん」
そう言って、右手を出す娘妖狐、すると温かい母の手の中で、肉球だったはずの右手が、人間の手になっているではないですか。
「いいか、ゆずなは妖怪だけど、自分を虐めた妖怪が嫌いでな。特に妖狐とか、その辺りには酷く虐められたらしいから……。絶対、こっちの手、出すんだぞ!?」
「うん」
「よし、わかったら行って来い」
「いってきまーす!」
そして夜の闇なのかへ、娘妖狐は歩き始めます。
しぃんとなった雪の山は、娘妖狐には新鮮で、時々雪を人間の手ですくっては自分の上へと撒きながら歩いていきました。
しばらく歩ていくと、そこに牛や猪の頭蓋骨が周りに捨てられている、一人が住むにしては大きな小屋がありました。
「ここかなあ」
と、呟きながら小屋の前に歩いて行って、扉の前に立ったのですが。
突然、屋根の上から雪が降り、雪が娘妖狐の目に入ってしまいました。
「きゃんっ!!」
そう言いながらも扉を叩いて、中から「誰だァ?」と声が聞こえたので。
「てぶくろをください」
と、娘妖狐は目を擦りながら言うと。
「手出せ、手、じゃねえとオレ、作れねえよ」
「あい」
と、目がよく見えないまま手を出してしまいました……しかも、肉球の方を、です。
中でゆずなは少し驚いていましたが、暫く手を見た後、出して余っていた糸を取り出し、手早く編んで、娘妖狐の手に乗せてやります。
「ん、金はあんのか」
「うん」
そして百銭束を渡すと、ゆずなは一応銭を噛んで、本物か確かめた後、「毎度あり」と言い、娘妖狐は外で飛び跳ねながら自分の家である穴の方へと、帰っていきました。
そして穴の前で、心配そうに待っていた母親は、
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