忘れ抱擁

もう何もかも嫌になって、散歩をしている。

就職、不景気、親の小言……挙げればキリがない、そんな状況の俺。



「はあ……」



ため息を吐いて、辺りを見渡す。

子供の頃からずっと変わらない、田舎らしい田んぼと畑、森に囲まれたこの町の小さな道。

俺や親、いろんな人が変わっていく中でこの風景たちは全く変わらない。

それが、嬉しいようで、寂しくて。



「……あん?」



ポケットから小銭を取り出して、ちょっと先にある自動販売機でコーラを買おうかなんて考えながら、俺はぽくぽく歩いていたのだけど。

そこに、フラフラと何か白っぽい塊が浮いていた。

もしかして洗濯物でも風で飛んでいるのかと思った、けど今は夜中の一時、余程じゃない限り洗濯なんてする奴はいない。



「誰だ!」



すると悪戯しかない。

誰だよ、たくっ……とっちめてやる!



「んにゃ〜?」

「……え?」



近づいてようやくわかったそいつの正体。

白なのだ、全身が絶え間なく――!



「あ、にんげん」

「う……」



いや、白じゃない……薄桃色で、紫色の模様が入った「翼」が四枚、震えている。



化け物。



そう認識せざる負えなかった。



「ぎゃぁあああああ!!」



俺は叫んで、振り向いたと同時に走り出す。



「まってー」



化け物の方は間抜けな声を出し、フラフラと飛んで俺を追いかけてくる。

ジクザグで走ったり、森の中を通ってもいつまでも追いかけてくる。

スピードはそんなに速くない、でも、見失わずに追いかけてくる。



怖い、恐い、逃げないと。



「まてー」



間抜けそうな、でも俺には死を予感させる声。



「来るなぁあああああ!!」



必死に叫んでも相手は追いかけてくる。

嫌だ、来るな、構うな、あっち行け。

まだ言うことはある、でも、そんなことを言ってる暇があれば逃げた方がいい。



「もー、とまれー」

「ぶはっ!?」



追い風が来て助かったと思った。

でも違う、追い風はすぐになくなって、代わりに飛んできたのは銀色の粉。



「ねー、まってー」

「うぅ……」



怖いのに――怖かった筈なのに、粉を吸った瞬間、足が止まってしまう。

そして湧いてきた感情。

もう、さっきまで思ってたことなんてどうでもよくなってきた。



就職、不景気、親の小言……挙げればキリがない、そんな状況の俺。



それよりも、今、目の前にいる「彼女」を犯したい、「彼女」との子を作りたい、「彼女」を孕ませたい。



まるで灯りに誘われた蛾のように近づいて、「彼女」に抱き付く。



「えっちしよー、えへー」



むにゅむにゅとした胸に埋まっても突き放されず、頭を撫でてくれる。

ふわふわした手でズボンとパンツを下ろして、優しく扱いてくれる。



「おっきしたー? んっ♪」



勃起したペニスを躊躇いもなく、「彼女」は自分の膣内へ挿入する。

嬉しそうに……ただ、それだけで。



「いつでもせーえき、びゅっびゅっしてねっ……」



地面だというのに寝転がって、俺の下になる「彼女」。

今まで漫画とかをオカズにしただけで、わからなかった膣の感触に、何もできずに射精をする俺。



「いっぱいでてう……もっといいよ?」



胸に挟まれてあうあうとだけ呻く口、壊れた蛇口のように精液を出し続ける俺のペニス。

あれ……?

俺、なんで「彼女」に精液をあげてるんだっけ……?



「むぎゅーするのきもちいーい? もーっとぎゅー」



ああ、そうだよ。

「彼女」を孕ませるためだよ。

何であんな事で悩んでたんだろう、もうどうでもいいじゃないか。



「だーいすき♪」



真っ赤な顔で、「彼女」はそう言った。



「大好き」



俺も、そう答えた。



夜の道で、ただ静かな田舎で二人ぼっち。



俺は「彼女」を孕ませる為に、夜通し交尾するのだった。
13/10/29 00:36更新 / 二酸化O2
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