魔物高校生とソフトボール、他一話

【魔物高校生とソフトボール】



曜、悠、真奈美の三人は制服からジャージに着替え、貴重品を担任に預けると、校庭の隅でキャッチボールや素振りをしていた。

今はまだ昼休みなのだが、三人はこのように集まり、先に練習をしているのだ。



「そろそろいいか」

「じゃあ投げっぞ〜」

「来い!」



悠がソフトボールを握り、バットを構える真奈美とキャッチャー装備をした曜を確認してから、下半身を持ち上げる勢いで振りかぶってボールを投げる。



「ふんっ!」ブオンッ!!

「よっと!」バスッ!

「へっへーん、打てないでやんの」

「ぐぅうう……」

「でも言い振りだったと思うわよ、次よ次」

「次、頼む」

「お〜」



曜から投げられたボールを受け取り、また振りかぶって、曜のキャッチャーミットへ向かって投げた。



「でやぁっ!」カキン!

「うおっ!?」

「ヒットヒット!」

「いつもよりは遅かったな」

「ちっくしょ〜!」



バリバリと頭を掻く悠。

急いでボールを拾いに行くと、そこに芳子がやって来る。



「何してんの?」

「練習よ、練習。アタシらこうしないとすぐ鈍るのよ」

「芳子もやるか?」

「いいの? 自分もちょっと自信ないからお願い」

「じゃ、真奈美はボール拾いお願い」

「ああ」



真奈美が頷いて外野の方へ向かい、ある程度離れた場所で腕を上げて大きく丸を作ると、悠は頷いて振りかぶって、思い切り投げる。



「えっ」ビュオゥッ!!

「よっと」バスゥウウン!!

「なーんだ、ビビったのか?」

「よ、様子見!」



元は男の芳子<旧名:芳雄>だ、悠の挑発に簡単に乗ってしまい、再びバットを構える芳子。



「っらぁっ!」ビュンッ!!

「ひぃ!」バスン!!

「ストライクツー!」

「ヘイヘイ! バッタービビってる!」

「く、くそ……」



芳子は完全に魔物を舐めていた。

アルプになってから……そしてこの学校に転校してきて早一か月になるが、体育は雨の関係でストレッチのみでソフトボールは今日が初めてであり、三人の実力も見るのは初めてだった。

悠は種族的パワーがあり、曜と真奈美もそのパワーに一年以上付き合ったおかげでだいぶ鍛えられているのだ。

アルプ、しかも今までストレッチしかやってこなかった女々しい体型であり、巨体のパワーとスピードの足されたボールは芳子にとって見ればプロ野球選手(♂)が投げているのと同等だ。



「けど……次は打つ!」

「いくぞ〜、ソイヤッ!」

(今だ!)ガキンッ!!



〔十分後〕



「大丈夫か芳子、まさかバントしたら骨が折れるとは思わなかった」

「ごめーん」

「まあアタシも最初のうちは折ってたからその内慣れるって」

「魔物娘って本当になんなんだ……!」



手と足をボールの衝撃だけで骨折させてしまった為に、包帯でグルグル巻きにされ、一週間の安静を言い渡された芳子であった。





【魔物高校生と文学悪夢】



ビュオォオオオオオオオオオ……



真奈美は近所にある川の土手に座って、風の強い中タブレットフォンで電子書籍を読んでいた。



(外で気になるからと私弟を読むんじゃなかったな……)ビュゥウウウウ、ザッ!



足音が聞こえ、完全にではなく少しだけ振り向くと――紫毛の馬型の魔物、ナイトメアが立っていた。



「……」

「……」ドス

(えっ!? 誰!? え、なに、気まずいワン!!)



後ろに座ったナイトメア。

それに困惑しながらもタブレットフォンを持ったまま真奈美は考える。



(なんで無言なんだ、このクソ拾い土手でわざわざ私の後ろに座っておいて! 何の用かはわからないけどやっぱり声をかけるべきなんだろうか、いやだが何故?)

「……」

(兎に角、知り合いでもない同性に気の利いたセリフなんて言えるわけないワン!)

「……」

(夕焼けが綺麗だな……いかんいかんいかん、そんなありきたりなセリフは似合わないワン! ……そう、この状況。夕焼けに染まる土手で孤独に電子書籍を読むアヌビスと出会う滅多にないシチュエーション!)

「……」

(多分このナイトメア、ロマンチックで非現実的なガールミーツガールを期待してるワン……)

「……」もじもじ

(どうもそんな感じだワン! ……と、なるとイカした一言だな)

「……」ジー

(まあ私は友人二人が塾と図書当番で忙しいから一人で読書してるだけであって、なんの設定もないアヌビスだが……)

「……」ジィー

(名もなきナイトメアの期待を裏切る訳にはいかないワン! 飛ばすぞ、すかした言葉を……)





「今日は……シルフが騒がしいワン……」





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