翌日。
天香は風香の車に乗って自宅より自宅らしい家である、祖父母の家に向かっていた。
「ちゆりさん……はぁ〜……」
「うん、少し天香が気持ち悪くなったこと以外は平気。……まあ、ウザいようならアルバイト行かせて大丈夫だから」
「ちゆりさん、どこにいる人なんだろう……」
「知らない、突然。うん、うん、とりあえず今も気持ち悪いけど大丈夫」
「あ、叔母さん! ここでいい!」
「え? ああ、わかった」
風香の車から素早く降りると、走ってとある民家へ向かっていく。
その民家には「染山」と表札が掛かっており、その下にあるインターホンを何回も鳴らす。
「ひーしぃぎぃい! ついでにシュゥーン!」
そう叫んだ数十秒後、ゆっくりと扉が開けられ、そこの間から不機嫌そうな表情をした青年が覗いてくる。
「誰かと思ったらヨッシー……。なんだよ、昨日シュンに血抜かれて貧血気味なんだよ、朝から暑いし」
「テンション低いな、ひしぎ! 俺はこんなに元気モリモリなのにさ!」
「……タケリダケでも食べたの? 童貞なのにお盛んだね、それじゃ」
顔色も悪く、眠そうな隈が不気味にさせている長身の青年――天香の幼馴染でもある、染山ひしぎはそう言いながら扉を閉めようとする。
「待て待て待て待て!! 幼馴染が疑問を抱えてきたんだぞ!」
「疑問? どっかしたの?」
「聞きたいことがあってな」
「そう……まあ、入って」
「サンキュー!」
***
「よっすシュン!」
「黙れ」
「えぇー!?」
染山家のリビング、と言うより畳が広がった居間。
そこで朝食だろうか、白米と味噌汁、野沢菜と卵焼きの並んだ机の前に座った黒長髪の魔物、ヴァンパイアでありひしぎの従妹である染川シュンが、そっぽを向いて冷たく言い放った。
「あー、ひしぎと従姉弟同士ラブラブ朝食だったんだな、ごめん」
「死んで詫びろ」
「そこまで!?」
「まあまあ、シュン、ヨッシーも悪気はなかったんだし。朝食も多い方が楽しいよ」
「うん、そうだな。ひしぎ、隣に来て」
「おい、なんだこの扱いの差」
「まあまあ……」
ひしぎに密着せんとばかりに近寄って黙々と出されたものを、シュンは食べ続ける。
「あ、そういえば聞きたいことって? 図書委員関係のこと?」
「いや、ちょっと気になる先輩がいるんだけど何年生かわからなくて」
「名前は? あ、麦茶貰うよ、シュン」
「うん、私も飲む」
「千住院ちゆりっていうんだけどさ、昨日喧嘩して気絶しちまったんだけど、その人が救急車呼んでくれたらしくて、ちょこっと話もできたんだけど」
「「ブッフ!!!」」
ひしぎとシュンが同時に天香へ麦茶を吹いた。
「きたねえ! 何すんだお前ら!?」
「ゴホッゴホッ! ヨッシーが予想外のこと言うからだよ!」
「ちゆりに気があるのね……」
「え? 何? お前ら知り合い?」
「知り合いも何も……。俺たち、生徒会の頂点、生徒会長その人だよ!?」
この二人は幼馴染でもあり、同じ学校に通う生徒だ。
集団行動の苦手な天香とは違い、従姉弟で図書委員会の委員長と副委員長をやっているのだが。
「せ、生徒会長なんていたのか……」
「普通いる」
「ヨッシー……」
「な、なんだよ! 生徒会入ってないから関係ないし!」
「でも生徒会長くらい知っとくべきだよ」
天香はそう言いながら、顔に付いた麦茶を出されたタオルを拭く。
ひしぎはため息を吐いて、ポケットからスマートフォンを取り出して操作すると、あるページを見せてくる。
「何だこれ?」
「生徒会のホームページ、会長のプロフィールが載ってるから」
「千住院ちゆり、高等部三年三組兼生徒会本部所属、帰宅部、十七歳」
「書いてはないけど千住神社の一人娘で、学年トップの成績保持者。去年はミスミネルヴァに選ばれた、絵に描いたみたいなヒロイン、みたいな?」
「大体そう」
「ほ、ほえー」
スマートフォンをしまって、ひしぎは天香を見据える。
「しかも彼氏は今のとこいない」
「マジで!? じゃあ、俺にもチャンスがあるのか!?」
「そりゃあね」
「でも付き合うのは無理」
「え、なんでさ」
「あー、ヨッシーは知らないか。うんとね、サッカー部の部長も野球部の部長も、ってかほとんどの付き合ってない男子がちゆりさんに最低一回は告白してるんだけどね」
「お、おう」
「みんな玉砕」
「ウッソ!?」
「ホント」
ひしぎは頷いてから、シュンを見る。
「シュンは?」
「ひしぎがいるから」
「もう、恥ずかしいなあ」
「おいバカップル! つーかなんで玉砕し
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