――やってられっか。
今時珍しい純粋な人間少年、浮田 天香は己の通う初中高の一貫教育校「私立ミネルヴァ学園」の校門を抜け、長い階段をゆっくり降りていく。
今、ミネルヴァ学園は学園祭前の準備期間に入っていて、クラスどころか学園中がすでにお祭り騒ぎなのだが、天香は元から「一緒に騒ぐ」ということは苦手で、中等部の頃からすでにこうやって早帰りをしている。
「ゲーセンでも行こうかな……」
そう呟きながら階段を降り切り、天香は市街地の方に向かって歩き出そうとした時。
にー。
と、天香の足元から、小さな何かの声が聞こえた。
何かと思って見れば、そこには子猫がいて、甘えているのだろうか?
天香の足元で喉を小さく鳴らしながら、頭を靴へ摺り寄せている。
「おおう、なんだミー助……。あ、女の子か」
邪険に扱うどころか、お世辞にも綺麗とは言えない子猫をそっと抱き上げて、天香はナニの有無を確認してから子猫の喉を撫でる。
「腹空いてんのか? ならいいや、祖母ちゃんのとこに行きゃなんかあるだろうし、行こうぜ」
子猫が鳴いて、天香が連れて行こうとした、その時だ。
「うぅーきだぁああああ!!」
「あん?」
そこに。
如何にも不良というか、金髪や茶髪に髪を染めており、だらしなくズボンを下げた男たちが十人現れ、天香を囲んだ。
天香の方は子猫を抱いたままため息を吐き、相手の中で一番背の低い、百五十センチの男……というより赤髪の少年が天香を下から睨む。
「何だ、子供番長か」
「その子供店長みたいな言い方すんじゃねぇ!! ぶっ殺すぞ!!」
「殺せるもんなら殺してみろっての」
子猫を頭に乗せた天香は指で挑発する。
その余裕さと、相手は一人ということに少年は怒りを覚えたのだろう。
「やっちまえ!」
「やってみろっての!」
一斉の怒号と共に、鳴く子猫を頭に乗せた天香へ男たちは突っ込んでいった。
その数分後……。
「で、何か言うことは?」
『すいませんでしたぁー!!』
「お、おい! お前ら!」
血まみれの天香に恐れをなし、同じく鼻血や口血が溢れ出している九人が逃げ出した。
天香の方は怪我ではなく、全部返り血によるものだ。
「子供番長、後はテメーだけだぞコラ」
「うっ」
「今度から復讐すんなら隣町の鬼沼と塗木、病持ぐらいの奴連れてくるんだな」
「ふ、ふざけんなよ、この!」
「あ?」
少年が突然、天香の懐へ突っ込んできた。
あまりの突拍子のない行動に、天香はマトモに対応できず、それに少年の手にあった『武器』にも気づかなかった。
そして一秒も経たないうちに、金属が擦れ合ったような不快音が、天香の腹部に響く。
「あ――」
「ざ、ざまあみろ!」
少年の持っていた物、それは一般的にスタンガンと呼ばれる代物だ。
高圧電流で相手を気絶、時には命を奪いかねない。
だが天香には逃げる少年と、頭から落ちて心配そうに鳴く子猫の声を最後に、目の前が真っ暗になった。
***
どれくらい経ったのだろう。
天香は目を開けることができなかったが、線香のような匂いが鼻を覆って、さらにはコンクリートだったはずの地面が少し柔らかい。
全身を痛みが襲っているものの、なんとか目を開ける。
「あ」
「あ、起きた?」
きちんとした制服を着ているのだろうが、Yシャツは豊かなバストで押し上げられており、スカートからは緑色の鱗をした長い下半身が見えている。
そう、そこには優しそうな表情をした魔物「龍」がいた。
「大丈夫? 道端に倒れてて、もう少しで睡姦されそうだったんだけど」
「え? ……あ、そっか、俺……」
「あ、混乱しちゃったかな?」
「い、いえ! 大丈夫です!」
「ん、そうっぽいね。あ、私は千住院ちゆりだよ」
「う、浮田天香です、天女の天に、天海○香の香で天香っていいます」
「天香君っていうんだ、よろしくね」
はにかんでから四本爪の手を差し出され、一瞬迷ったがすぐに自分の手を差し出す。
自分の心臓がホラー映画を見た時以上に高鳴っているのがわかって、天香は平静を装いながらも頭の中はすでに沸騰寸前だった。
今いる場所が病室、しかも天香の乗っているものはベッドだと気づかないほどに。
「ね、なんであんなところで倒れてたの?」
「え、ええと……」
「もしかして喧嘩?」
「ええと、まあ、はい……」
「もう! 喧嘩はダメだよ!」
頬を膨らまして、リスのようになったちゆり。
しばらく凝視していた天香だが、思わず吹き出してしまうと、つられてか、ちゆりも笑い出
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