本章

十七歳にもなれば、どんな男も女というものが気になってくる。
岩山で十七年間暮らすウシオニと人間の半人半妖(ジパングでいうインキュバス)の虎太郎もその例外ではない。

「虎太郎くーん!」

「うおっ!?」

その山頂。
木の実でも取ろうかと、木を登ろうとしたところへ急に長細いが凹凸のある影が木から落ちてきた。
虎太郎はそれを受け止めたが、あまりの重さに耐えかねたのかバタリと倒れてしまった。

「だ、大丈夫?」

「きゅ、急に落ちてくんなよな……うおっ!?」

あまりの痛さに目を瞑っていたのだが、目を開けると見慣れてはいるものの、近くで見ると思わず心臓が高鳴る可愛らしい顔が近くにあった。
自分の胸板には相手の大きな乳房が押し付けられ、ふわふわと甘い香りが鼻孔をくすぐっている。

「ごめんねっ!」

「え、うん、えと……」

「どうしたの、虎太郎君? 顔真っ赤だよ?」

「なっ、なななな何でもねえよっ! 離れろっての!」

「ちぇー」

その相手は虎太郎から離れた。
エメラルドのように輝く鱗で覆われた、蛇のような下半身をくねらせて、ムスッとした表情でその場に浮かぶ。
上半身は豊かな乳房が白の着物を張らしているのと、金色に輝く水晶玉が目を引き、薄紫の長髪を一つに結い、水晶玉と同じような金の瞳の可愛らしい顔も特徴的だ。

「なんでいつも考え方とかやることが餓鬼なんだよ、龍妃」

「む、ちょっと失礼だよっ!」

ぷんすかという擬音が似合うように腰に手を当て、龍の龍妃は頬を膨らます。
虎太郎が五歳の頃、突然この岩山にある廃神社に住み着いて、出会ってから度々会う内にこのような――恐らく虎太郎を好いている為に――龍とは思えない行動(木から飛び降りて飛びつくとか、癇癪を起こして嵐を起こすとか)をしては、悩みの種を増やす龍妃である。

「だったら大人らしく振る舞えよ」

「虎太郎君以外にはそうしてるもん」

「俺にもそうしろや」

自分の腰を撫でながら起き上がり、身体を伸ばした後、龍妃がいた木を登る。
針葉樹が並ぶ中で誰が植えたかは知らないが、柿が生っていたので虎太郎はそれを五個ほどもいで降りていく。

「少ないね」

「龍妃だって柿食いたいだろ、多分カラステング達も食うだろうしな。そんじゃ、また」

「えっ!? もう行っちゃうの?」

「昼飯残したまんまなんだよ、母ちゃん泣くと五月蠅いし」

そう言った虎太郎は針葉樹の森へと入っていった。
岩山とは言え山頂付近一帯には森になっており、何より龍妃がいるためか、少し前まで涸れていた筈の地下水や水脈が復活しているので、独り身の妖怪でも十分な生活ができる。

「バーカ! 虎太郎君の阿呆!」

が、龍妃はそれが気に入らない。
そう、十分な生活ができる故に、この岩山の妖怪や半人半妖達は妙に大人しかったり、性交にあまり積極的ではないのだ。
彼女が愛する虎太郎もその例外ではない。
子供を育てていい男を捕まえるという目的で、カラステングの“みかん”と一緒にウシオニの“ゆずな”に拾われた虎太郎。

だがウシオニの中でも年長だが、如何せん頭に四回ほど巨大な岩石が当たって、悪かった頭がさらに悪くなったゆずなは子供を育てる内に、いつの間にか捨て子を拾って「可愛いな〜もう〜」なんていうような親馬鹿に成り下がってしまった。
麓の村からは子供を攫って食っている、などと言われているけれど。

それで子供が多かったり、ゆずなが男探しで忙しくても、一番上の虎太郎とみかんが食べ物を運び、下の兄弟が薪運びや料理をすれば生活は上手く回るのだ。
たまに龍妃も水運びなどで手伝う。
ゆずなにも「いつ虎太郎は龍妃と結婚するんだー?」とか聞かれるし、みかんとも仲がいいので家族との軋轢は問題なさそうだが、なぜか虎太郎が毎回のように拒否をするのだが、理由は聞けずじまいである。

「むぅー、何がいけないのかな?」

龍妃はため息をついて水面に映る自分の姿を見る。
上半身だけならば十人が十人、美しいと言うのかもしれない。
だが下半身は化け物としか言い様がなく、龍というだけで人や岩山外の妖怪からは恐れられる。
虎太郎もその一人かもしれないと思うと、納得はできるものの悲しくなってしまう。

「やっぱり怖いのかなあ……」

自分のゴツゴツとした、四本爪の手を見ながら呟いた。
龍妃はまた吐いたため息が何度目かわからないまま、肩を落として住処である神社に戻る。
廃神社だったこの場所は、岩山の妖怪達が親切に新築してくれたのだ。
外国の妖怪、魔物と呼ばれるドワーフのネリーがいたおかげでかなり素早く建てることができたし、一人で住むのにも快適なのだけれど。

「ん……」

長い下半身を伸ばし、龍妃は敷かれた三枚の布団に仰向けになって寝ころぶ。
時折、風で揺れる葉の音と、小鳥の
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