「コラっ!野菜は残すなと言ったら何回言ったらわかるんだ!」
「だって嫌なものは嫌なの!!」
「野菜もしっかり食べないと、大きくなれないぞ!」
「もう充分にお胸はおおきくなったもん!」
「だからそういうことじゃなくてな…」
これが我が家の食事風景である。ここはジパングのK州にあるH国。石垣の美しさには定評のある城で有名である。そしてこの物語の主人公である丸目頼安は、娘である彩の偏食に悩んでいた。
「どうして彩は野菜が嫌いなんだ…」
夕食を食べ終わり、縁側で1人酒を飲みながら独り言をこぼす。私の娘は、狐憑きである。彩は今年で12歳になるのだが、同年代よりも体の発育はよい。しかし、どうにも偏食が激しく、なぜか野菜を食べないのである。その偏食ぶりは尋常ではなく、以前私の上司である加藤忠興様が隣国から手に入れたという清正人参(バテレン語ではセロリと言うらしい。)と言う野菜をもらい、食卓に出したところ、彩は清正人参だけを避けてそれ以外の物を食べたのである。その時、私は彩に叱ったのだが、怒った彩が清正人参を投げつけ、それが私の開いた口にシュート(バテレン語らしいのだが、投げるという意味らしい。しかし、これで使い方あっているだろうか?)してしまい、喉に詰まらせてしまったことがある。
「私の可愛い旦那さま。そんな顔してどうなさったのです。」
後ろから、妻の小雪が私に声をかける。実は私の妻も狐憑きなのである。
「いや、彩の野菜嫌いはどうにかしなければと思ってな…」
そう言うと私は、ため息を漏らした。何度も彩の野菜嫌いを治す為、ありとあらゆる手段を使ったのだが、その全てが失敗に終わっているのだ。
「…大丈夫ですよ。彩の野菜嫌いでしたら、そのうち治りますよ。ですから、そんなに心配なさらないで。」
小雪が私を諭すように話す。
「それなら良いのだが…」
「さぁ、もう寝ましょう。明日も早いんですから。…でも布団の上で、早いのは許しませんわよ。」
「…やっぱり今日もするのか?」
「当然ですわ。さぁ、私がそんな些細な悩みを吹き飛ばすぐらい、ご奉仕いたしますわ。」
「…わかった、そうしよう。」
そう言うと、私と小雪は寝間へと戻ったのであった。
翌日、私は午前の業務を終えると、同僚である猿渡有信と共に近くの城の外堀の周りを散歩していた。時期はもう春まっ盛りで、暖かい陽気の中、桜の中を散歩するのは何とも気持がよかった。
「なぁ、ちょっと相談したいことがあるんだけど有信いいか?」
「俺は別に大丈夫だが、どうしたんだ?」
「実は…うちの娘が偏食が激しくて、野菜をちっとも食べてくれないんだ。どうすればいい?」
「お前ん家もそうなのか?」
「え?まさか、有信のところの娘も偏食家とか?」
「いや、そうじゃないんだ。実は、子供の偏食を治す方法を聞いたことがあってな。」
「え!?どんな方法なんだ。」
「野菜をすり潰して、それを気づかれないように他の物と混ぜるって方法だ。この方法で、道雪様は娘の偏食を治したそうだ。何とも、道雪様の娘はネコマタで、以前は肉と魚しか食べなかったが、この方法でちゃんと野菜も食べるようになったそうか。」
「ちょっと待て。あの…忠興様の重鎮である高橋道雪様の娘がネコマタ!?」
「ああ、あんな仁王様の様な顔して、家に帰ったら妻と娘とでにゃんにゃんやってるらしいぜ。」
「ウシオニの方がお似合いだと思うんだがな。」
そう言うと、二人は声を上げて笑った。おっと、道雪様は…いなかったか。
「はっはっは…ああ有信、本題がそれちゃったね。残念だがすり潰し作戦は、以前試みたんだが、鼻が効くのか一発でばれてしまったんだ。」
「匂いでわかるって…お前んとこの娘すげーよ。」
「それ以外の方法は知らないか?」
「うーん…野菜にアルラウネの蜜をかけてみるのはどうだ?」
「それもやったけど、今度は蜜だけ舐められた。」
「そうか。確かに、俺の部下の鎮幸もやったんだが、駄目だったそうだ。」
「…ちなみに鎮幸の嫁は?」
「ウシオニだが。」
「ジパングの七本槍と言われる龍造寺鎮幸が意外だな…」
こんなしょうもない会話をしながら小一時間有信と散歩したが、結局何一ついい答えを導き出せないまま帰宅することになった。
「ただいま…」
「あら、お帰りなさい。旦那さまどうしたの?元気が無いわよ。」
「ああ、大丈夫…」
私は1人、自室に籠り考えた。どうすれば彩の偏食は治るのか…
(何かいい方法…方法…ん?そう言え、アルラウネの蜜作戦の失敗は、野菜の表面にしか蜜がかかっていなかったからだよな…)
そう思うと、頭の中が高速で回転した。
(かけるのがダメなら、料理に染み込ませればいいんじゃないか!)
我ながら
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