魚氷に上る

 今後の就職活動が、有意義になるよう、お祈りいたします。

「…またこのメールか。…もうこの言葉、何回見たっけ。」

 空は、厚い雲に覆われて、今にも雨が降りそうな勢いである。私は現在、就職活動に勤しむ大学4年生である。大学の成績は、非常に優秀で、常にトップ争いをしており、陸上部でも活躍している…のだが、肝心の就活の方は全くダメダメで、卒業式もあと1週間後というのに、今だ内定が出ていないのだ。

「まったく、何がダメなんだろうな。」

私は、やれることは全力でやった。履歴書の添削、面接、筆記試験対策、会社のOB訪問。それだけではない。卒業論文も、人並み以上にこなし、優秀な結果を残した。もう、血反吐が出るかというぐらいに努力した。遊ぶ時間も減らした。誰にも負けたくない気持ちはあった。…それなのに、内定は出なかった。落ちた会社の数は、ざっと6、70社はあるだろう。俗に言うお祈りメールの数が、それを表している。こうしたお祈りメールは、臥薪嘗胆ということか、全て取ってある。自分への戒めの為に。だが、ここ最近、そうしたメールが、私に訴えかけているのではないかと思うようになった。まるで、私が社会不適合者と言わさんばかりに。

「…こんなに糞真面目にやっても意味無いのかな…」

だんだん、自分の存在そのものに疑問を感じて来た。私の様な人間は、ここにいてよいのだろうか。いっそ、死んでしまった方がよいのではないか。

「だけど、死んで解決するかって言ったらそうでもないよな…」

そう自分に言わせながら、私は大学から駅までの道のりを歩く。死んでも逃げ道はない。死んだところで、何も生まない。そもそも、この世に逃げ道なんてない。そう考えてると、何だかこの世がとても生きにくい場所のように思えて来た。そんなことを考えていると、何やら顔に冷たい物があたった。

「あ、雨…」

そう言うと、急に雨がザーっと降り始めた。あいにく今日は、雨具を持ってない。

「…天まで、俺を馬鹿にするか。」

そう言うと、私は苦笑いを浮かべ、駅に急いで向かった。





「ただいま…」

「あら、おかえリ。」

 それから1時間40分後、私は家に着いた。私の住んでいる場所は、大都市のベットタウンとなっている市で、そこのマンションの一室に、父と母の、合わせて3人で暮らしている。

「なぁ、母さん。やっぱりあそこ、ダメだった。」

「ふうん。あ、そう。」

そう、母に報告しても、母は無関心そうに答えた。いつだってそうだ。父も母も、私に関心があると思わせておいて、内心自分の事しか見えていない。父は、酒とパチンコで失敗し、借金の問題を何度も起こしている。そんな父に愛想を尽かしたのか、私が社会人になった際、母は離婚するそうだ。その母も、自分勝手な人間で、自分の意見は子供にゴリ押しするくせに、こちらが質問してもまともな答えを返さない。それどころか、「うるさい」の一言で全てを片づける時もある。それについて、本人曰く、「家事も仕事もしているから、そう言う事を言う権限は私にある。」との事である。全く、スターリンも真っ青な母である。そんな母の為、私は母親からの愛情を感じた思い出は、小さい頃の記憶も含め、一切ない。そんな家族である為、私は相談するに相談できなかった。以前、就活が始まった直後、母に相談したことがあったが、一貫性がなく、矛盾した回答ばかり返ってくるので、最近では相談しなくなった。おかげで、元から少なかった家族との会話はさらに減少。家の中には、いつもピリピリした空気が流れていた。

 夕食を終え、風呂から上がった後、私は自分の部屋でただ寝転がり、思いにふけていた。

(…環境が悪いって、言い訳にならないよなぁ…。だとしたら、その分、努力しなけりゃならんなぁ…)

どれだけ努力しても、どれだけポジティブに考えても、その全ては水泡に帰した。努力が足りなかったから?それとも、一瞬でもネガティブになったから?全く原因がつかめない。どちらにせよ、こんなことくよくよ考えても、明日は来ないという事は事実である。

「さぁ、明日も面接だ。」

そう言うと、私は寝る支度をし始めた。こんなことを考えてもしょうがない。とにかく、出来る事をしっかりやろう。ただそれだけだ。



「本日は、ありがとうございました。では、失礼します。」

 翌日、私は昨日落ちた会社とは別の会社の選考を受けていた。面接官の顔と、声のトーン、うなずき方等を見る限り、ここもダメそうだ。

(ははっ、またダメか…)

そう内心で思いながら、私はとぼとぼ歩いていた。

 そんな中、会社から歩いて数分後、私は古寂れた神社を見つけた。その神社は、私が会社に行く時には見つからなかった物で、雑木林の奥にその神社はあった。私は、その神社に何か魅かれる
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