その世界は一つの国によって治められていた。
秩序ある白き世界、あるのは白い大地と建物、そして人々が生きるための水を供給する湖だけだった。
人々は王を信じ、王は人々を守った。
ありとあらゆる物は秩序の元、一切の不平等なく分け与えられた。
食事も仕事も結婚も、睡眠もありとあらゆる物が秩序によって定められていた。
しかしそんなある時だった。
次に秩序を守ることを受け継ぐ事になる王子に笛の音が聞こえたのは。
空からそれは堕ちてきた。
それは混沌であった。
混沌は湖に落ちた。
混沌は水に溶けて人々に広がる。
水を摂取した人々に不可思議な熱病が広がる。
熱に浮かされて人々は交わりあう。
この世界では決められた条件を持つ者達だけに子作りを許されていた。
だが熱に浮かされた人々はそんな事をお構いなしに交わり合っていった。
交わり合う人々は姿を変えて行く。
蜘蛛のような姿に変わる男もいた、その男の窪みにハマり交わり合う女も居た。
触手を頭と下半身に生やして、その触手で男の脳みそをかき混ぜて身体と一緒に混沌の一部へと変えていく者もいた。
ドロドロの粘液へと姿を変えていく男女もいた。
境界線すらわからなくなるほどドロドロに混じり合う者たちが。
混沌が迫ってくる。
人が混沌を生み、混沌が人を飲み込む。
常に交わり合っている姿こそが正常と言わんばかりに笑顔で人々へと近づいてくる。
獣や触手、虫、水性生物、ありとあらゆるものへと混沌に犯された人々たちは変わり果てていく。
かつて統一された言語、見た目、服装……、それらはまさしく混沌のように全く統一されてない雑多な姿へと変わり果てていく。
騎士団が向かう、聖女たちが向かう。
だが混沌はそれさえも飲み込み、次に民が見たのは異形のつがいに成り果てた姿である。
人の姿を捨てた肉塊から生える触手によりその粘液状の身体にありとあらゆるところを犯されながら混沌と共に行進する者、それをかつての騎士団長、聖女長と一目で分かる人間は居ない。
だがそれもすぐに理解できるようになる。
彼らと同じ混沌へと堕ちれば、自ずと理解できるのだ。
混沌が近づく。
ラッパの音色と共に。
人々は恐怖した。
秩序によって支配された人々にとってそれは初めての経験だった。
争う者、守ろうとする者、逃げようとする者、混沌へ自ら堕ちていくもの。
だがそれらも全て……。
それは初めて見る出来事であった。
黒い混沌の津波、それが海がないこの世界で人々が初めて見る津波だった。
恐怖、歓喜、憎しみ、怒り、悲しみ、喜び、全てを飲み込んだ。
かつて白い大地があったそこには混沌の海があった。
そこにあるのは常に雌雄で繋がり続ける混沌の怪物だった。
そこにかつての姿を見出せる人はもはや居ない。
王子は空に居た、ラッパを吹く天使と共に。
天使は自分の股を広げる。
それは王子が初めて見る女の性器であった。
ラッパを天使を鳴らす。
混沌が王子を飲み込み、新たな世界の王に相応しい姿へと変えていく。
ありとあらゆるところから触手が生えて、巨大な肉塊の怪物へと。
新たな世界の王に必要なのは、快楽と愛欲のみ。
全てを侵し尽くす欲望の元。
天使は怪物に囚われる。
空から溢れた愛液や精液が地に落ちてくる。
それらは混沌と混ざり合う。
ただ交わり合う。
全く意味を為さない声をあげながら。
この世界で唯一の秩序、それは快楽と愛欲を繋がり合う一つの生き物でありつづける事。
それだけだった
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