泥に沈む大きな愛

「ずっと友達だよ!」

「うん!」

それがどれほど昔だったか彼女は覚えてない。
遠い遠い昔の思い出だ。

顔も声ももはや思い出の中。

「あの人に会いたい……」

その思いを叶える為、それは力を溜め続けた。
ずっとずっと……。

彼女が初めて来た時は岩だらけだった洞窟はいつのまにか泥だらけになっていた。
硬い石は、どんどん柔らかくなり水分を持ち泥へと。
そこに植物の種が飛んでくる。
それらは芽を出し育っていく。

「ありがとう、良い土を作ってくれて」

「ううん、私もありがとう、1人でいるのは寂しいもの」

植物は全て娘の姿へと化した。
不思議だったが話し相手が増えるのは嬉しかった。

「ここまで来たら、大丈夫だな!ここでほとぼりが冷めるまで……!」

「そうね、でもこの洞窟変じゃない?泥だらけよ?」

そんな日々の中、どうやら盗賊らしき男女が洞窟に逃げ込んできた。

「……良い?」

「良いよ……!あの人じゃないし……」

彼女は仲間のテンタクルの女の子に許可を出した。
洞窟の侵入者を彼女の思うがままにして良いという許可を。

「っ!?な、なんだこの触手!?」

「う!動けない!?足元が泥でぬかるんで!?」

「じゃあ、いただきます
#9825;」

触手が2人に近づく、泥に沈みつつある2人は身動きできず餌食となった。
盗賊の女が新たなテンタクルとなり、男が2人のテンタクルの夫となったのはそれからしばらく後の事だ。

「もう、こんなに経ってるんだね……」

新たな仲間になった盗賊の人々からあれからどれほどの月日が経ったかを聞き出した。
もう彼が生きてるかどうか分からないほどの月日が経っていた。

「早く……会わないと……」

洞窟の外にも泥は溢れてきた。
少しづつ、しかし確実に範囲を広げていた。
広げれば広がるほど仲間は増え、拡大するスピードは上がっていった。

「!?な、なにこれ!?早く知ら、っ!?」

気づいた人が居ても、報告する前に泥に沈めた。
今さっき沈めた人間が持っていた本を読んでみた。
それは魔導書であった。
そこにある秘術が書かれていた。
それは彼女の希望となる方法が書かれていた。

「早く……!」

人々が気づいた時には手遅れだった。
小さな村の洞窟に近い所から、泥に沈んでいった。
小さい村にそれらに抵抗できる人などろくにおらず、居ても増えた仲間達に敗れ仲間になるのがオチだった。

なんとか沈みゆく村からいち早く逃げる事ができた人々は、その地域の領主が住む城下町へと逃げていった。

「ここから先はちゃんとした戦士とかもいるから手を考えないと……」

そう仲間達は彼女達に教えてくれた。
だから彼女は考えた……。
そんな時だった、泥に沈めたある所から何かを感じ取れたのは。
それはきっと彼女と同じ想いを抱いていたからだろう。
彼に会いたいと。

だから彼女はその魂の想いも叶えることにした。

それからしばらくして、準備は整った。
数日前に領主であった男は先代の領主によって先んじて逃げさせられたが問題はなかった。

「やっと会える……」

兵士達が城を出て彼女達の方に攻め込んできた。
しかしそれはできなかった。
何故なら城下町を泥で囲むようになっていたからだ。

魔法使いの部隊も何故か攻撃の威力が弱まっていた。

彼らは知らなかった。
彼らが食べていた植物などは既に彼女の泥によって育てられており、その力を受け取っていたことを。
それを食べる時点で、彼らの中には魔力が溜め込まれていた。

そしてそれに抵抗するよりも早く、街が沈んでいく、石垣さえもどんどん沈んでいく。
人々も沈んでいく。
老若男女も分け隔てもなく。
あらゆるものを泥の中に沈ませて。

「やっと……会えた」

そして泥の中に沈んだ街の上で1人の老人がそこに居た。
この街の先代領主にして、彼女の想い人であった。

「お前……!?まさか!?あの時の!?」

「そうだよ……!大きくなったね……!」

かつて彼女と男は親友であった。
しかし魔物と親しくする事を周りから敵視され、引き剥がされ、彼女はとある洞窟に閉じ込められてしまった。

「俺は……お前に……!」

「みんなが仲良くなれるようにするんでしょ、ほら、見て
#9825;」

「ああ……
#9825;きもちいいよぉぉ
#9825;」

「しずむぅぅ
#9825;
#9825;」

街の中には嬌声が渦を巻く。
男の前には、同じように泥の女か、キノコや綿毛、いろんな植物の女達が泥で身動きが取れない身体を愛していく。
女達も泥や胞子や、種やあらゆるものを流し込まれて彼女達の仲間入りを果たす。
剣や鎧、レンガ、石などの硬いものは全部泥とかして。
年老いた人も、まるで泥に老いを吸い尽くされたかのように、若返っていく
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