愕然

「…もう一度言ってもらいますか?」


「だから、俺は勇者になれる様な人間じゃないって言ってるだろう?」


 あの後ヴィルネスを連れて自宅に入ったディランはテーブルに向かい合って座った後、いの一番にこう告げた。


ー…俺に勇者なんて勤まる訳がないだろう?


 これにヴィルネスはその厳格そうな表情が思わず呆けたように口を開けてしまっていたが、やがて震えながらもう一度問い掛けて来た為ディランは再び返答をした。その途端…。


ばんっ!


「何を馬鹿な事をおっしゃるんですか!?貴方は勇者として選ばれるという事がどれだけ重大な事か分かっていません!!そもそも勇者と言う者は誰でもなれる物ではないのです!主神に仕える敬虔な信徒であるだけでもいけないですし、万軍を退ける武勇があるだけでもいけない…真に人々に平安を齎す事の出来る人間でなければならず、その様な人間にこそ主神は勇者としての宿命を見出すのです!軽々しく拒絶できるものではないのですよ!?」


「けれど、ならどうして俺なんだよ?俺は見ての通りただのしがない漁師だ。勇者として相応しい人間とは思えない。それより北にある『セルマディオ』にある『聖騎士団』に所属している聖騎士達だって武勇のみならず人々の平安を護ろうとする高潔な精神を持ってると思うぞ?なんで彼らを差し置いて俺なんだ?」


 熱弁を振るうヴィルネスに対してそんな風に面倒くさそうに返答をしたディランを見た彼女は暫しやるせなさそうに顔を歪めて悶絶していたのだが、やがてため息を吐くと仕方なさそうに事情を話し始めた。


「…神の声を、聴いたからです」


「神の声?」


「貴方も知っての通り、私達ヴァルキリーは神々に仕える戦士でもあり、同時に神が認めた勇者や英雄になるべき人間を育て、導く役割も持っています。その際主神は私達ヴァルキリーに指示をする為に『神の声』を伝えてくるのですが、その時に私は主にこう命じられたのです」


ーヴィルネスよ、私は新たな勇者を見出した。カリュネスと言う土地へ向かえ。その土地には『その土地の生まれではない民人』がいる…其の者こそ私が見出した新たな勇者である。これを育て、そして導くべし。


「そうして私は地上に降り立ってこの村に赴き、ここに足を向けたのです。貴方からはこの村に住んでいる人々と違って土地の結びつきがあまり強くないのが感じ取れました。それが意味するのは…」


「俺がこの土地で生まれ育っていない、外からの人間だという事を示している…って事だな。凄いなヴァルキリーって、そんな事までわかるのか」


「当たり前です。神に仕える戦士でもある私達ヴァルキリーにとってこの程度は容易い事なんですから『けれど…少し見落としている所があると思うな』何ですって…?」


 突如として口を挟んできたディランにヴィルネスが疑問を覚えると、ディランは悲しそうに呟いた。


「確かに俺は貴方の言うとおり外から来た人間だ、それは否定しない。けれど…この村にはもう一人余所から来た人がいるんだ。いや…『いた』、と言うべきだな」


「っ!?どういう、事ですか…?」


 信じられない、そんな風に顔を歪めて問いを投げるヴィルネスにディランは徐に立ち上がると、壁に掛けてある外套を羽織った。


「ついて来てくれ」


「ど、どこへ行くのですか?」


「この村にある、教会だよ」


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


 カリュネスはこの世界でも稀有と言える中立の地域であるが、それでも主神を信奉する為の教会が建てられていた。その裏手には亡くなった人達を弔う為の墓場があり、ディランとヴィルネスはその一番奥…身寄りのない人などを弔う為の特別な墓地に赴き、ある一つの墓石の前に立っていた。


 その墓石には、こんな文字が刻まれていたのである。


ー名も無き騎士、ここに眠る


「これ、は…」


 墓石を前に困惑するヴィルネスに聞こえる様に、ディランは話し始めた。


「…2年前、だったかな。俺がこの村に腰を落ち着けて間もないころ、この村に一人の流れ者が来たんだ。ぼろぼろの外套の下に騎士が纏う様な甲冑を纏っている青年だった。しかもその青年は病を患っていたらしくてそのままこの教会で養生をしていたんだ」


「当然村人達はこの騎士を怪しんだ。その頃北の都市で『セルマディオの惨劇』が起きていた頃だったからこの騎士がその犯人じゃないのか…皆がそう思うのも無理は無かった。けれどベヌロン爺さんはその騎士を追い出そうとしなかった」


ーこの世のどこに傷ついた小鳥を追い払う樹木があろうか?まして病を患っている身でここまで旅を続けてきたこの青年を、儂は無碍には出来んよ。


「そう言って爺さんはこの青年を匿った。元々この土地は反魔物領からも目が届
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