100人足らずの人しか住んでいない小さな漁村であるカリュネスは、今喝采に包まれていた。村に住んでいる住人の青年が大型のシーサーペントを仕留めて帰ってきたのである。
元より小さな漁村である為、日々の糧は近くの山に出向いて薬草を採取したり、鹿や熊などを狩猟する事。または海に船を出して魚介類を得る以外に得る術が無いのだが、いずれの方法も安定性に欠ける物ばかりである。ならば農耕をしようとしても土地その物が豊かとはいえない土壌である為、結果的に作物などは時折村に来る商人達から物々交換をして得るのが基本だった。当然鹿や熊の肉や毛皮、海で取れる魚介系の物などそれほどの価値も無く、基本的に得られる物もたかが知れており、村人達は質素な暮らしをしていた。
だからこそ青年が仕留めてきたシーサーペントの様な大型の海獣はこの漁村からすればまさに『お宝』と言ってもよい程だった。何せ肉にしてもただ焼いたり、スープにすれば絶品な上に天日干しや塩漬けにして保存食にも出来るばかりか、北にある都市に売りに行けばかなりの高値で売買できるのである。この為村ではわざわざ都市まで遠出をして売りに出し、それで得た財貨で村で必要な雑貨や穀物を買い込んで帰るのが基本的な流れだ。
またシーサーペントの鱗などは親魔物領にいるドワーフの手で鋼の甲冑と同じくらいの強度を持つ甲冑として再生できるためこれもまたこの漁村では貴重な収入源になるのだ。この為、この日村では盛大な宴が開かれた。
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老若男女問わず肉の塊を豪快に焼き上げた物や、焼き立てのパンがたくさん盛られた皿を前に杯を酌み交わして賑わっている酒場。その喧噪の中にバーに座りながら料理を味わい、葡萄酒を傾けている人物がいた。今回の宴の主役とも言える、シーサーペントを仕留めて見せた青年だ。
「よおディラン、宴の主役がこんなバーの片隅で葡萄酒を傾けてていいのかい?今夜ぐらい羽目を外してもいいと思うがね」
「ははっ、それはそうなんだけどさ…俺はどっちかと言うとこうして皆が喜ぶのを見ながら、静かに料理を味わうのが好きなんだよ。…いいと思わないか?皆が笑顔を見せながら喜びを分かち合う場面ってさ」
「…確かにな。それじゃ、いつものように裏手から出て行きなよ。正面から出ようとしたらまた皆に絡まれて巻き込まれるぞ」
「ありがとうマスター、それじゃ…」
そう言って青年…ディランは葡萄酒の入った杯を空にすると、密かにバーの勝手口から出て行った。
「あれ…!?ディランの奴また出て行ったのかよマスター!?」
ディランが出て行って間もなく彼がいなくなっている事を悟った、この村では数少ない若手の漁師らがマスターに詰め寄っていた。
「ああ。今頃自宅に向かって足を運んでいる頃だろうさ」
「…ディランっていつも宴の時になると皆の輪に入らないで離れた場所で飲んでるんだよなぁ。そんでもってまだこれからって時に出て行って…俺達とつるむのが嫌なのかな?」
そう言って若い漁師の一人が愚痴をこぼすと、その後ろから杖を突きながら青い質素な服を纏った老人が近づいてきた。この村の長を務める『ベヌロン』だ。
「それは違うと思うがのお?あ奴はああ見えて他人と交わる事を嫌ってはおらんよ。ただ、男と言う者は一人で静かに過ごしたい時もある、と言う事じゃよ」
「…そうだな、ベヌロンの爺様の言うとおりだな」
「ああ。なんだかんだ言ってあいつ、いい奴だもんな」
そう言いながら若い漁師たちは再び宴の喧噪の中に戻って行った。一方ベヌロンはある方向…ディランの住む家のある方向に顔を向けていた。
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月明かりに照らされた夜道をディランは仕留めたシーサーペントの肉を詰め込んだ網籠を背負い、真っ直ぐに自身の自宅へ向けて歩いていた。彼の家はカリュネスの外れにある丘の上にあった。一人暮らしの身としてはかなりの大きさを持つ家で、元々はこの村でも力のあった地主が住んでいたらしいが、都会での暮らしに憧れたその人物は家族総出で都会に移り住み、それ以来長老が管理していたのをこの村に居ついたディランに対し譲り渡したのである。
ふとディランは足を止めて振り返る。視線の先には酒場の一体を中心として煌々と明るいカリュネスの村が見えた。今頃はまだまだ宴の真っ最中で賑わっているのだろう。
ディランはこの村の生まれではない。流れ者であり、当然流れ着いた当初は村に唯一ある宿屋も兼任している酒場で過ごし、余所者として見られていたのだが都市へ向かう行商人の護衛や森へ行って戻らない子供達を助けに行ったりするようになると少しずつ村人達も彼への警戒心を解いて行き、そして長老からこの家を託された事
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