第6章『Road Under The Ground』
栄暦1459年4月27日 午後5時35分
人間界 エルメッド大陸 カンネバ砂漠北部
リートス村 民宿
「あいよ。じゃあ、確かに一泊分、代金もらったからね。ほら、これが鍵だ。何もないとこだが、ゆっくりしてってくれ」
「ありがとう。ヴェリナ、部屋へ行くぞ」
「ああ」
国境を越えてから、さらに歩くこと7時間。
ようやく最初の集落、リートス村についた。
最初この村に入ったときは、あまりの過疎っぷりに空いた口が塞がらなかった。
こんなところに宿屋があるだけでもすごいと思う。
「・・・国境ひとつ超えただけで、世界って変わるものなんだな」
変わってきたのは建物だけではない。
自然の風景からも徐々に緑色が失われ、かわりに濃い茶色の大地と黒い石が目立ってきた。
この村の周辺に至っては、地面から生える雑草と枯れたような色の細い木ぐらいしか植物がない。
人が住むには、ここはあまりに辺鄙だろう。
だが、では魔物が住めるかと聞かれれば、正直首を縦には降れない。
魔物の種類に詳しいわけではないが、乾燥した場所を好む魔物が住むには、ここは湿り気が多い気がする。
そもそも人間があまりいないんだし、精も取れない。
だから誰も集まらないのだろう。
しかし、そんな村の印象とは裏腹に、宿の部屋はかなり良かった。
清潔そうな薄緑色のカーテン。
地味すぎず、しかし華やかすぎるわけでもないシャンデリア。・・・ん?こういう宿にシャンデリアってついてるものか?
そして何により目を引くのは、美しいバラが刺繍されている毛布のかけられた、ゆうに二人は一緒に寝られそうなベッ―――
え?
あれ?
・・・なんで、ベッドが一つしかないんだ?
それをアルスに言うと。
「・・・なるほどな。ヴェリナ、荷物はまだ置くな」
「え?どうし―――」
「いいからここにいろ。すぐ戻る」
そう言い残して、アルスは下の階へと降りていった。
取り残されたアタシは、ぼんやりとそこに立っているしかなかった。
1分後。
戻ってきたアルスは言った。
「すまない、待たせたな」
「それはいいんだけどさ、何してきたんだよ?」
「部屋を変えてくれと言ってきた」
「何で?何か問題でもあるのか?」
そう言うと、アルスはこちらをじっと見てくる。
いつもどおりフードで目は見えないが・・・
なんとなく、ジトッとした感じだった。
「・・・まあ、お前にとっちゃ問題ないというか、むしろ好都合なのかもしれないが」
「ますます分からないよ。いったい――」
「お前、もしかして本当に分かってないのか?」
「だから何が?」
そう言うと、アルスは唖然とした口調で言った。
「世間をよく知っているとは思っていないが、これほどとは。・・・ヴェリナ、ここは連れ込み宿。つまり性交することを目的とする男女用の宿だぞ」
「・・・え!?」
アタシがそう答えたのは、こういうものの存在を知らなかったからではなく、アタシの知っているものとこの部屋とがあまりにかけ離れていたから。
アタシが見たことがあるのは、バラックとさえ言えないような粗末な小屋。
もちろんこんな立派な家具なんか無く、よく牧場の荷車にかぶせるような藁のシートがひいてあるだけ。
なんでこんなこと知ってるのかって言うと、一時期そこの利用金回収役をしていたから。
・・・その時好奇心に負けて、ヤッてる所をほとんど見てたとは口が裂けても言えないが。
「で、どうする?ここを出るのか?」
「いや、それは無理だ。他に宿屋があるとも思えんしな」
「野宿でいいじゃないか」
「それができるなら最初から宿屋には入らない。ここは地面の状態が悪すぎてテントが張れないんだ」
「じゃあ・・・」
「ここで一泊、ということになるな」
「さ、明日も早い。そろそろ寝よう」
ああ、さっきから鼓動がうるさい・・・
アタシだって、一応は女だ。
好きな男と一緒の布団で寝る。
このシチュエーションに、興奮しない訳がないわけで。
サラマンダーの致命的な欠陥って、すべての感情がわかりやすく表に出てしまうことだよなぁ。
可能な限り無表情を装っちゃいるが、顔が真っ赤になってるって時点で既にバレバレだろうし。
こりゃさぞ尻尾も盛大に――ああ、やっぱり。
音こそそれほど立ててはいないが、アタシの尻尾はメラメラと燃えている。
ま、どうせ「好きだ」って言ってしまったんだし、今更隠すこともないんだろうが。
「ヴェリナ、起きろ」
体を揺すられて、アタシは深い眠りから目が覚めた。
・・・うわ、自分でもわかる。今朝の調子は最悪だ。
寝不足。
昨夜は余りにも、眠れない理由が多すぎた。
まあ、一部はアルスのせいなんだが。
二人ともそれほど大柄ってわけでもないから、ベッドには普通に二人とも入った。
最初アルスは「オレはソファ
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