第5章『The Strange Walkers』

第5章 『The Strange Walkers』
栄暦1459年4月27日 午前9時50分
人間界 エルメッド大陸 ブリジカ共和国
5番街道 国境線まであと3km

二日という時間は、あっという間に過ぎ去った。
その間アタシとアルスは、夜野宿する時以外はほとんど口を聞くこともなく黙々と歩み続けた。
たまにすれ違う旅人や行商人から情報を得つつ、ただ歩く。
退屈だったろうって?そんなことはない。
ブリジカからほとんど外に出たことのなかったアタシには、見るものすべてが新鮮だ。
色とりどりの布をかけたいくつもの荷物を馬車に引かせる商人。
でかい体に無骨な鎧をまとい笑い合う傭兵達。
白いローブを着て長い杖をつきながら歩く魔導士っぽい男。
すれ違うのは人間だけじゃない。
ブリジカは中立国、つまり反魔物でも親魔物でもない国なので、魔物の往来もそこそこ活発だ。
本を片手に歩くのは、サバトの宣教魔女だろうか。
群れをなして走っているゴブリンもいる。
「・・・すごいな」
世界のあちこちを見て見聞を広げるつもりだったが、家から二日歩いただけでも知らないものは山のようにあった。

ただ、一つ気になることがある。
それは、アルスに向けられる魔物たちの視線だ。
アルスはフードを深くかぶっているので、顔が半分以上見えない。
巡礼者とかならフードかぶってても不思議じゃないが、アルスは余りにもかぶり方が深い。
だから、人間からは時たま変な視線を向けられる。
だが、魔物たちの視線にはそういう珍妙なものを見る目は含まれていないように思える。
では何か。

恐怖。

具体的なものではない。
何というか、『何かあの人怖い』という類のものだ。
アタシの気のせいなのかもしれないが、もしそうなのだとしたらなぜだろう。
アタシにはそんな気配は感じられなかったんだけどな・・・

「・・・リナ?ヴェリナ!聞いてるのか!」
はっ。
「あ、ごめん、考え事してたんだ」
ここは道沿いにある、旅人の休憩所のようなところ。
小規模だが食堂や商店、安宿などもあり、旅の助けになるところだ。
国内にはこういうのがいくつもあるらしい。
アタシとアルスは、ここで早めの昼食を取ろうと立ち寄ったのだ。
「全く・・・」
アルスは少しため息を付き、手に持っていたふかしたジャガイモを口に放り込んだ。
「まあ、常時ピリピリしてろとは言わんが、あまり気は抜きすぎるなよ。いつの時代も、旅での危険はそのへんにいくつもゴロゴロしてるからな」
「そうなのか?」
「ああ」
アルスがそう言った瞬間。
「おい、客共!命が惜しけりゃ、金をよこせ!」
野太い男の大声が、食堂内に響きわたる。
声のした方を見ると、そこには薄汚くてやたら大きな服をきた男。
手には剣と、ぼんやりと光る魔符。魔導士か。
それより何より――
(あれは・・・十字!?)
服の左胸あたりに描かれた模様。
ほぼ消えかけているが、間違いなくあれは『主神教団』のシンボルマークだ。
まさか、あいつ・・・!
「違う」
耳元で鋭く囁かれたアルスの声。
「え・・・何の事だ?」
「奴は『教団』とはなんの関わりもない」
いや、でも確かに胸に・・・
って。
「なんでアタシの考えてることが」
「実に簡単。顔に出てるんだよ。『あいつは主神教団の回し者だ』ってな」
・・・へ?
いやいやいやいや。ちょっと待て。
確かに『主神教団』のはぐれ魔導士かとは思ったが、別に回し者なんて思っちゃいない。
アタシは教団をあまり良く思っちゃいないが、全ての黒幕だと何の根拠もなく決め付けるほど嫌ってはいない。
あいつらの言うこと(あいつらの神が言うことか)も一理あると思うこと、結構あるし。
「・・・で?」
「え?」
「お前なら、この場をどう切り抜ける?」
どう切り抜ける、って・・・
アタシは魔導士の方を見る。
どうやら全身の魔力を放出しているらしい。顔は醜く歪み、額からは汗が垂れている。
にもかかわらず、感じられる魔力はわずか。
魔導士の命綱たる魔符さえ、まるで雲の厚い日の陽の光のように薄ぼんやりと光るだけ。
と、なれば。
「アタシは、脅されただけでホイホイ財布やるほどお人好しじゃない」
「ほう」
「魔符の光り方から見ると、あいつはほぼ確実に雑魚だ」
「ああ」
「で、アタシにゃ刀がある」
「ああ」
「だったら」
アタシは立ち上がり、床を蹴る。
物音に反応して強盗がこちらを見るが、視線の先にアタシはいない。
タン、という音がした0.1秒後には、アタシは強盗の後ろに回り込んでいたからだ。
そして。
そいつの首筋を、(アタシとしては)軽く柄で突いた。
「グフォッ!」
男は一瞬その場で痙攣したのち、口から泡を吹いて倒れた。
数秒間、沈黙が店を支配する。
その直後、アタシは大歓声の中にいた。

「何故あの場であいつを取
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