第4章 『I Go Because・・・』
栄暦1459年4月25日 午前5時06分
人間界 エルメッド大陸 ブリジカ共和国
メルヴェシティー 37番街道
「ついてくるな」
「良いじゃんか」
横にいるアルスに言われ、アタシはへらへら答える。
「旅は道連れ世は情けっていうだろ。一人より二人の方が楽しいって」
「オレは同行者を必要としてないし、この旅に楽しさも求めていない」
「固いこと言うなって」
相変わらずフードを被っているので、表情はあまり読めない。
だが、上機嫌そうな顔はしていないだろう。絶対。
「・・・第一、オレに同行することで、お前に何のメリットがある?スラムで職を得て暮らした方が余程楽だろう」
まあ、普通に考えたらそう思うよな。
でも、アタシは違う。
「・・・アタシは、何も知らない。自分の生きてる、この世界について」
「そんなの、他人に聞くなり書物を読むなりすればいいじゃないか。わざわざ旅に出てまでする事じゃないだろう」
これもまた、正論ではある。
でも、やっぱりアタシは違う。
「アタシが知りたいのは、ほかの奴が見たり聞いたり書いたりした世界じゃないんだ。自分の目で見て、耳で聞いて、肌で感じた世界なんだよ」
アタシたちサラマンダ−は、若いうちに自分の婿を探して旅に出る。
アタシの場合は、それが『世界を知ること』に変わった。
それだけだ。
・・・だって、コイツ以外の男なんか・・・なぁ。
しかし、やはりアルスは認めない。アタシを追い返そうとする。
「だったら一人で旅しろ。何でオレと行く必要がある?」
・・・いや、分かるんだ。アルスが正しいってことくらいは。
アルスのいう事は正論だし、アタシは今とんでもなく無茶苦茶で自己中心的なこと言ってるってのも分かるんだ。
アルスの言う通り、アタシはアルスの旅の障害にしかならないのかもしれない。
武でも知力でも、多分アタシは負けてる。
役に立たないお荷物にしかならないのかもしれない。
だけど。
「・・・アタシは、アンタが好きなんだ。だから、できるだけ一緒にいたいんだよ」
そう言うと、アルスが、初めて家を出てから足を止めた。つられて、アタシも足を止める。
「『好き』だって?」
心底驚いたような声だ。
フードのせいで目がどうなっているかは見えないが、口を見る限り、どうやら本気で驚いているらしい。
「ああ」
答えてから気付く。
・・・ああ、顔が熱持ってきた。きっと真っ赤になってるんだろうな、アタシの顔。
「・・・つくづく変な女だな。出会ってまだ3日と経たない男に惚れたというのか?とても正気の沙汰とは・・・」
「人間が人間を好きになるのにどれだけの時間がかかるのかは知らないけど、アタシらには5分あれば十分。そいつが、自分の運命の男ならね」
「・・・じゃあもし、その男が自分を好いていなかったらどうする?」
それが単なる質問でないことは、容易に察せられた。
だから、あえて慎重さを捨ててアタシは答えた。
「ほかの奴がどうするかは知らないけど、アタシならすっぱり諦める」
アルスと一緒にいたい。できれば、いつまでも。
そのためなら、何でもする。
好きになってもらうために、力を尽くす。
・・・でも、もしアルスに最後まで愛されなかったら。
その時は、諦めよう。
これもまた、事前に家で決めていたことだった。
いくらアタシがアルスの事が好きでも、愛っていうのは押し付けるものじゃないと思う。
じゃあどういうものだって言われても、答えられないけど。
「・・・本当に変な女だ。お前、本当にサラマンダーか?」
「そうだが?」
「サラマンダーは、相手が自分を愛していようとなかろうと、地平線の果てまででも追っていき、一方的に愛を叫び、そして最終的には自分のモノにする種族だと聞いた」
「そういう奴らが多いらしいな」
「だから、オレはサラマンダーが大嫌いだ。すべての魔物達の中で五本の指に入るくらいな」
う。
ううう。
これは、予想外に効いた。
アタシの性格とか云々以前に『アタシがアタシである事』を全面的に否定されたような気分だ。
――これは、完全に脈なしかもなぁ・・・
アルスがアタシを拒否する理由が「アタシがサラマンダーであるから」であるならば、もうアタシには打つ手はない。
一度そう思ってしまうと、どんどん絶望感が膨らんでくる。
無意識のうちに、アタシは俯いていた。
だんだんと、地面が滲んでくる。
「まあ、良いだろう」
出し抜けに、アルスは言った。
心なしか、ほんの少しだけ、声が柔らかくなっている気がした。
「お前に興味が湧いた。一緒に来たいなら来ればいい」
「・・・へ?」
思わず、間抜けな声が漏れた。
「だが、もし帰りたくなったら帰れ。引き止めはしない」
一方的にそれだけ言うと、またアルスはすたすたと歩き始めた。
[3]
次へ
[7]
TOP [9]
目次[0]
投票 [*]
感想[#]
メール登録