第1章『Precipitation And Awakening 』

第1章 『Precipitation And Awakening 』
栄暦1459年4月16日 午前4時56分
人間界 エルメッド大陸 ブリジカ共和国
メルブェシティー スラム街

窓の隙間から入ってくる冷気が、アタシの毎日の目覚まし代わりだ。
寒さには敏感なアタシにはかなり有効だが、いつか風邪ひいちまうんじゃないかとも思う。
ま、目覚まし時計買う金なんざアタシにゃねーけど。
…っと、こんなことして時間を無駄にはしてられない。
北の大地にあるこの街にも、そろそろ『春』が来はじめてる。
てことは、太陽も早く昇りだすってことで――
急がなきゃ、アタシの大好きな『あれ』見逃すかもしれない。
アタシは万年床から体のバネを使って跳ね起き、ベランダに出る。
そこから飛び、屋根の上へ。
そして、いつもの場所へと駆け出した。

「・・・」
毎日毎日見慣れているはず、そして、ごくありふれているはずの景色。
だけど、アタシはそれを美しいと思った。
東の方――ちょうど、この国の王様が住んでいる城の一番低い尖塔に半分ほどその身を隠しながら、いつもと同じように朝日が昇ってきた。
朝焼けがいつから大好きになったのか、細かい時期は思い出せない。
少なくとも11年前には好きになっていたが、それより前となると記憶が怪しい。
まあ、6歳の頃の自分なんて覚えてる奴の方が少ないだろうが。

こうして朝焼けを眺めていると、普段は考えないようなことをいろいろ考える。
例えば、なんで『主神』と魔王様は仲良くできないのかとか。
なんで『主神』は平和を望むとか言いながら、あっち側の人間とか神族とかと協力して戦を起こすのかとか。
だらしなくてキモチいい事が好きなのって、そんなに悪い事なのかとか。
世界の設定なんぞわざわざ書き換えなくたってみんな元気に暮らしてるのに、なんで魔王様は世界を変えたがるのかとか。
まとまりなく膨大に、好き勝手に広がっていく思考。
考えてるはずなのに頭がボーっとして、そのうち頭の内側がふんわりねっとりしてくる。
その感触が心地よくて、アタシは目を閉じて寝っころがる。

目を覚ますと、いつの間にか結構な高さに登った太陽の光ががアタシの肌をじんわり照らしていた。寝てしまっていたらしい。
今日もいい天気だ。
「…へっくし!」
だが、どんなに天気がよかろうと、北国の4月は寒い。
これでも1月前よりはだいぶ暖かくなったんだが、さすがのアタシも、外でタンクトップ一丁で寝るのはまだ無理だってことだろう。
病気への抵抗力は人間の比じゃないからまず大丈夫だろうが、念のためあったかいもんでも食って体を温めよう。
そう思って瞬間。
ぐるぐるぐる。
我ながらわかりやすい体だなおい。
アタシは、屋根の上を家に向かって走り始めた。

この家で生活し始めてからもう10年経つのか。月日の流れってのは早いものだ。
自分で作ったヤギ肉と豆のピリ辛(アタシには)雑炊をかき込みながら、ふとそんなことを思った。
アタシは、基本的に市場で食材を買う。
ホントなら狩りでもして自給自足の生活をしたいところだが、ここら一帯には野生の動物がほとんどいない。
寒い中何とか作物を育てようにも、スラム街の土地はやせまくっててそばさえ育たない。
豊かな土地もあるにはあるが、大地主やら国やらに全部押さえられてる。
はっきり言って、生活は苦しい。
――でも。
「あーっ、ねえちゃんお肉とりすぎだろー!」
「おまえこそとりすぎ!ねえちゃんのこといえねーぞ!」
「そうよ!あんたこそみんなの事考えなさいよ!」
「ケンカしてる暇なんかあんのかー?フフフ…」
「あっ、ねえちゃんずるい!ごはんいっぱいとってった!」
昼飯の用意をしていたところ、こいつらに嗅ぎつけられた。つくづくハナの良い奴らだ。
で、急きょ材料を足し、4人分の飯をこしらえたって訳だ。
こいつらとは、近所のガキども。
とはいっても孤児って訳じゃなく、ちゃんと親も兄弟もいる。
だが、こいつらはアタシの事も家族同然に思っていてくれているらしい。
よく遊ぶし、週に5度はこうやって一緒に飯を食う。
その上こいつらは、アタシも知らない街の事情に結構通じている。
例えば、だれがどこの不良に因縁つけられて困ってるらしいとか。
そういうトラブルを何とかするのがアタシの生業だ。
といっても、腕に物言わせたら何とかなるトラブル限定。
頭使うのはそれほど得意じゃない。
ゴロツキを探し出し、
ぶっ飛ばし、
「二度とその顔見せんなよ」という。これだけだ。
この界隈じゃかなり名を知られていて、恐れられている、らしい。らしい、というのは、ここにいる奴らから町のうわさ話という形で聞いた話であり、あたしがきいたわけじゃないからだ。
…まあ、でも、それなりに名は売れてるだろう。
10か月前。アタシは、
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