連休というのはあまり好きになれない。
一日一日が過ぎるたび、ただゴロゴロしていた自分に疑念を抱いてしまう。
そんな二連休初日の朝のことだった。
「…あ、タバコ無いや」
スーツのポケットに手を突っ込んだが、タバコの箱が無くなっていた。
先輩が来た時に捨てられたのだろう。
「ストックは…よし、捨てられてないか」
ベッドの下の段ボール箱に3カートンほど入ったタバコ。
キッチンで火をつけ深く吸い込む。と、それを見越したように先輩からの電話がきた。
「もしもし?先輩、どうしたんですか?」
「あ!あのさ、き、今日デート行かない?急で悪いんだけど…」
「いえいえ、喜んで行きますけど…今起きたところですからちょっと時間かかるかもしれませんよ」
「大丈夫!ゆっくりそっち向かうから!」
若干興奮した様子でさっさと電話を切る先輩。
デートは嬉しいけれど、もう少し前に言ってくれたらタバコも吸わなかったものを。
「ふう…行くかな」
タバコをもみ消して服を着替え、戸締りを確認する。
すると外に真っ赤な外車が止まっているのが見えた。
「…なんだありゃ」
扉が開いて出てきたのは、先輩だった。
「やー悪いね、日暮くん」
「いやいや、デートのお誘いなら大歓迎ですよ」
ピカピカの外車を軽く運転している先輩。
自慢ではないが俺は外車に乗ったことなどない。
「先輩、この車って先輩のですか?」
するとアクセルを蛇腹で踏んだまま、尻尾の先をちろちろと嬉しそうに振って答えた。
「うん、可愛い車でしょ?」
「まあ確かに…というかカッコいいですよね」
「へへ…私が買ったんじゃなくて、親からもらった車だからね」
照れたように頭をかく先輩。
親からこんな車をもらうとは一体…?
「先輩の実家ってもしかしてお金持ちですか?」
「んー…私のいた地方の中ではかなりお金持ちかな…だからそこから逃げて東京に来たんだけどね」
「逃げて?なんでです?」
「私さ、昔からこの体だから…お父さんとかもお見合いで私と誰かをくっつけようと思ってたみたいで、でも私は自分のパートナーは自分で選ぶって言って、飛び出してきちゃったってわけ」
「なるほど…ごめんなさい、込み入ったこと聞いて」
「君が謝ることじゃないよ!こ…こ、恋人なんだし、それくらい話しておかないと」
顔を赤くして目をそらす先輩。
俺もなんだか気恥ずかしくなって外を見る。
すると外は完全に都会から外れ、生い茂る木々に覆われた森だった。
「先輩、どこに向かっているんです?これ」
「えーとね、確か人外にも人気の温泉があるとかでこっち来たんだけど…ん?」
急に先輩が路肩に車を停めた。
こちらをじっと見ている。
「吸ったよね?」
「ぎくっ」
「…お仕置きはまた後にしてあげる」
ちょっと怒った顔でエンジンキーを回す先輩。
気まずい沈黙。
「先輩?あの…なんでそんなにタバコが嫌いなんですか?」
「臭いし体に悪いし…」
「うっ…自粛します…」
先輩のタバコ嫌いはかなりのものだ。
これ以上アナルを犯されては大変なので、少しは規制しないといけない。
「あ!着いたよ!」
「え?」
なんとなく気まずいまま、温泉「ヒノキの湯」に着いた。
そこでこれから起こる大波乱を、俺は知る由もなかった。
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