やさロリ系フーリーちゃん

僕は知っていたのだ。


彼女の様子は、数ヶ月前からどうもおかしかった。

持ち上がっていた同棲の話はぴたりと止んだ。

友達から「他の男と歩いていた」と聞かされることもたまにあった。


僕は意気地なしだ。


それを彼女に問い詰める勇気はなかったし、ましてや糾弾できるほど彼女に愛を伝えられていなかった。

彼女が別れを切り出すその時まで、気持ちに整理を付けられるまで、僕は彼女のそばにいてやろうと考えていた。

だが、その彼女も彼女なりに思うところがあったのかもしれない。


一時間ほど前、僕は『ホワイト・クリスマスツリー』のある公園の広場で彼女と会った。

公園内はデートスポットだけあってカップルだらけだ。


「別れよ、正夫」


会うなり早々言われた言葉だ。


「………うん、分かった」


僕の方はとうに理解していた。

彼女の愛は、もはや僕の方に向いてはいないのだと。

僕の淡白な言葉に彼女はやや面食らった様子だった。


「…あのさ…なんで?」

「…え?」

「私が他の男とくっついてるの知ってたでしょ?その口ぶりからするとさ」

「…うん、知ってたよ?1ヶ月くらい前から、さ」


彼女の目を見ずに答えた。

顔を伏せないと、自分の情けなさに耐えきれなかった。


「なんで、引き留める努力しなかったの?」

「…君が僕よりいい人を見つけたなら、それを邪魔することなんてできないよ」

「私、今自分でも勝手だと思う、でもさ…それでいいの?寝取られ男に甘んじてて、それが本当に私に対する優しさのつもりだったの?」


僕は皮肉の言葉を返した。

そうすることしかできなかった。


「君が早くそう言ってくれたら、僕から別れを告げていたさ」





現在、僕は公園のベンチに一人で座っている。

頬には赤い手形。

先程からいるカップルは僕の方をチラチラと気にしている。

新しく来たカップルは僕の乱れた心などつゆ知らず、別のベンチでごろごろと戯れている。

聖夜にこの場所の雰囲気を悪くしてしまっただろう。

空気の読めない存在は早めに消えた方がいいかもしれない。

分かってはいる。

だが、立ち去るような力が足に入らなかった。

耳と指先が痛い。

薄く地面に積もるほど、雪がしんしんと降り続けている。


「キノミヤマサオさん…木宮 正夫さん?」


甘ったるくて高い声が、凍みた僕の耳を突いた。


「え?」

「木宮 正夫さんですよね…?こんばんは、私はエリィっていいます」


にっこりと微笑んだ声の主の顔。

目線を上げてギョッとした。

そこに立っていたのは年端もいかない少女だ。

その格好は、桃色半透明のレースで作られた薄い布地の下着のような服だけ。

局部や胸元の大事なところは白い不透明な布で隠れているが、そういう問題を除いても明らかに冬場の格好ではない。

大きな桃色の瞳に長いまつ毛、幼さの滲む顔立ちも相まって、小学5年生ほどの女の子のように見受けられる。

だが胸元は大きく盛り上がっているし、身体のラインは妙に艶かしい。

その余りの衝撃にかける言葉に迷っていると少女が口を開いた。


「正夫さん、あなたに愛を届けに参りました!」





周囲の目が痛すぎたので、先ほどまでの傷心はなんとやら。

手を引いて急いで人通りの少ない脇道に逃げ込んだ。


「ですから、エロス様は『愛』を何より大事としていて、この聖夜に際して愛を感じる人間を一人でも多く増やしたいのです」


ほぼ生のお尻を冷いベンチに付けることを気にもかけず『エロス様』とかいう神様について話している。

彼女が言うに。

・彼女…エリィちゃんはフーリーという魔物娘(と神の中間)
・フーリーはエロス様という神様を信奉している
・その神様の重視する『愛』を届けるために人間界の人に接触した
・そのヤバめな格好はデフォルト
・寒さとかは魔法らしきなにかで色々あって平気

らしい。


「ふーん……でも、僕よりも愛が足りない人って他にもたくさんいるんじゃ…」

「厳正な審査を経て私は派遣されたのです!正夫さんの場合…慢性的な愛情不足が原因でしょうね」

「…まあ、たしかに彼女から愛はもらえてなかったよ」

「実家にもお帰りになっていなければ、家族からの愛も不足しますからね…ともかく!正夫さんは私の愛を受け取っていただきます!」

「あ、いや、そういうのいいんで」

「えっ」

「だって…褐色ロリと愛を育むとか社会的にマズいじゃん…」

「そ、そういう問題じゃないです!魔物娘にとって今日は性…聖夜なのです!すごく忙しいのです!仕事がたっぷりある日なのです!」


桃色の瞳に涙が溜まっている。

泣かせるのはさすがにまずい。


「わ、わかったから!泣かないで、ね
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