ドラゴン狩りというのは、数ある魔物の退治や討伐の中でも格別の意味を持つものだと魔物ハンターたる僕は考えている。
僕の名前はメルン=キャーディン。
仕事は魔物ハンターである。
諸君に誤解のないよう伝えておくが魔物ハンターにも色々な人がいて、大きく二つに分けることができる。
一つは過激派…教団派と言うと分かりやすいだろうか。
教団派の魔物ハンターは魔物娘達の「討伐」を目的とした人々であり、分かりやすく言えば魔物娘を「殺す」のが仕事である。
実害をなす魔物娘を殺し、問題を解決するのは理にかなっていると思いつつも、彼らを見ると僕は少し複雑な気分になる。
もう一つ、僕が属する穏健派だ。
穏健派は教団派と異なり、あくまで「解決」や「退治」を目指して魔物娘達に接する。
僕たちはなるべく「殺す」ことをせず「交渉」や「取引」でもって魔物娘たちの行動を抑える。
時には魔物娘に対して、人に迷惑のかからない、住み良い場所への移住の世話までしたりする人もいるらしい。
教団派に比べて教団とそれに関わる人々には冷たい目で見られており、熱心な教徒の人からあからさまな侮蔑を向けられることもある。
長くなってしまったが、ざっと言えばこんな感じだ。
そして今、僕はドラゴンの「討伐」に出向いている。
なぜか。
遡ること1ヶ月前。
「おい、お前がメルンか?」
「へ?あ、はい」
「俺の名前はフールだ、ここいらじゃ知らねえやつはいないと思うけどな」
酒場にいる僕にいきなり声をかけてきた男性。
歳は僕よりもいくつか上の20代そこそこだろう。
教団に属する自称「勇者」であり、魔物娘たちをたくさん「殺し」てきたことで英雄視されている。
「はい、ご活躍は存じています」
「お前の話も聞いたぜ、教団はお前のことを嫌ってるみたいだが…特別に俺が雇ってやろうってんだ」
「は、はぁ…お言葉は嬉しいですが、僕よりもずっと優秀な魔物ハンターが教団には何人もいるのでは…?」
「へ、勘のいいやつだな、いいぜ教えてやるよ」
フールは僕に声をひそめて言った。
「ドラゴンを狩りに行きたいんだよ、俺は」
「へ……?い、いや、それなら尚更僕よりも…」
「それがな、教団の腰抜け達は『呪い山のブラックドラゴン』を狩りに行くって言ったらみんな尻込みしちまったんだ」
「……!」
呪い山のブラックドラゴン。
それはこの村から20kmほど離れた、強烈な魔力による嵐が吹きすさぶ『呪い山』のてっぺんの岩穴に住みついているドラゴンの俗称だ。
百年以上前…かつてそのドラゴンは、幾度となく周辺の国を襲い、圧倒的な力でもって欲しいものを欲しいままに奪い去っていたという伝説がある。
最近は全く姿を見せないことから、死んだのではないかとも言われていた。
なぜ今更そんなドラゴンの巣へ行くのだろうか。
「なぜ…?ブラックドラゴンはここ数十年おとなしいと聞いていますが…」
「へへ、それがだな…ドラゴンってのはどこを売っても金になる、あのブラックドラゴンなら魔力の量も多いし、武器にも防具にも薬にも良質な素材になるはずさ」
「……あなたは私利私欲のために、ドラゴンを狩るのですか?」
「違うな、俺はいずれ魔王も倒すんだ……そのためには強くて良い装備と、格好のつく伝説をもってないといけねえ」
「…申し訳ないですが、ドラゴン狩りは非常に危険ですし、ドラゴンの身体を持ち帰るには相応の準備が必要です、僕は辞退します」
「おい待てよ、もうすこし話を聞け」
「失礼します」
彼のあまりに図々しく、自信過剰な物言いに気分が悪くなりそうだったので、早々に席を立つ。
すると肩を掴まれ、怒りが滲んだような声で言われたのだ。
「俺がその気になればお前なんか殺して埋めることもできるんだぞ?安心しろ、お前みたいな雑魚を戦わせる気はねえんだよ…お前はただドラゴンとの戦い方を俺たちに教えるだけで構わないんだ」
そして彼が指差した先には、酒場の外にいる武装した教団員達の姿があった。
断れば殺されると知り、僕は依頼を受けたのだ。
ドラゴン狩りに向かう道中、本当に僕は戦わなかった。
フールの「仲間」は彼に似てガラが悪く、マナーや態度もよろしくなかったが腕っぷしだけは強かった。
僕を含めた男女計6人、ドラゴン狩りはその10倍いても良いほどに大変な仕事だが、彼曰く。
「ドラゴンを殺したら、魔法使いがこの辺で一番栄えてる国に行って支援を要請するのさ、そしたら全員で運び出してから分け前の分配といこう」
生身のドラゴンの身体というのは非常にデリケートなものであり、加工も一流の職人しかできないような物なのだ。
それを一週間以上もかけて運び出せ
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