僕の名前は高島マサト。
小学3年生、9歳だ。
毎年この夏の時期はおじいちゃんの家に、数日泊まりで遊びに行くのが恒例だった。
でも、いつもはお盆とかにおじいちゃんから電話が来るのに今年は少し早かったし、おじいちゃんは真剣な声で「大事な話がある」って言ってたし……なんだろう?
ちなみにおじいちゃんの家は僕の家から電車を三本乗り継いで、かかる時間は全部で4時間くらい。
おじいちゃんの家はすごい田舎にあるから虫や鳥がたくさんいて楽しいし、おまけにおいしいスイカ畑まである。
そんなわけで、今日は8月最初の日。
昨日は楽しみでなかなか眠れなかったからか誰もいない、クーラーの効いた快適な電車でうとうとしてしまう。
乗り換えの最後の電車だけど、おじいちゃんの駅まではまだまだ10駅以上ある。
僕はそっと目を閉じ、僕以外はほとんど乗ってこない電車でお昼寝をすることにした。
「次はー毒食みー毒食みーお忘れ物のないようお気をつけくださいー」
目を覚ますと、そこはおじいちゃんの家の一つ前の駅だった。
つい枕の寝心地がよくて危うく寝坊してしまうところだった。
枕?
と、僕は頭を隣の人の肩に乗せてしまっていることに気がついた。
「あ、ご、ごめんなさい……」
慌てて身を縮こめる。
見ると僕の隣に座った人は、お腹から下はムカデの足になっている。
おじいちゃんからそんな魔物娘さんが近所にいる、と聞いたことはあったけれども、見ると怖くて変な声が出てしまった。
「ひぁ……!」
「ふふ…おはよう、私は気にしてないわ…」
その大ムカデさんの顔は長くて艶のある黒髪に隠れて、あまり表情は見えなかったけれど、口元はナイフで切り裂いたような笑みを浮かべている。
「あ、ありがとうございます…?」
「んふ、ねえ君はどこで降りるの?なんでこんなところに?」
「僕は次の駅で……おじいちゃんの家に遊びに行くんです」
引きつるような笑い声。
なんだか怖い魔物娘さんだ。
「ふひひ……そっかそっか……ひひ…君さ、お名前は?」
「たか……ぁ…えっと……」
お母さんから言われているのだ。
知らない人に名前や住んでいるところは教えてはいけない、と。
「ご、ごめんなさい、お姉さんは知らない人だから…お名前教えたらダメってお母さんに言われてて……」
「ふひ…
#10084;そっかそっか
#10084;仕方ないよねぇ……知らない人だもんねぇ…」
「次はー毒原ー毒原ーお忘れ物のないようお気をつけくださいー」
と、車内アナウンスが流れた。
「あ、じゃ、ぼ、僕はこれで……」
さっきから大ムカデのお姉さんは僕を舐めるように見てくるから、少し怖かった。
さっさと降りておじいちゃん家に向かおうと立ち上がる。
「ひひ……っ
#10084;お姉さんとお話ししようよ……
#10084;」
ぎちぃっ…!とお姉さんに巻きつかれてしまった。
すごい力で、おまけに張り付いた身体にびっしりと生えた短い足が僕を撫で回す。
「ひっ…!や、やだっ…!」
「すー……はぁぁぁぁぁ
#10084;いい匂いするなぁ……
#10084;」
お姉さんは僕の頭やお腹、お股なんかを嗅ぎ回っている。
暴れても全く剥がれる気配はない。
「発車します、ご注意ください」
と、いつのまにか電車がおじいちゃんの駅を過ぎてしまった。
「や、やめてっ!もう降りなきゃ…!」
「はぁ…?バカだなぁ…いひひ
#10084;私の名前は毒爻寺(どくこうじ) アカネだよ…
#10084;私に捕まったら、その時点で君はおわり…っ
#10084;」
「うぅ……えいっ!」
僕はお母さんから持たされた防犯ブザーの紐を思いっきり引いた。
車内に大きな音でブザーが鳴り響く。
「はぁ?何してんの?」
「ぇ……」
トーンが低くなったお姉さんが防犯ブザーを僕のカバンから捻りとる。
すると、目の前でそれを握って。
「いいこと教えてあげる
#10084;この電車の車掌さんは12両目の最後にいるんだよぉ…
#10084;ここは6両目だから、運転手さんにも車掌さんにもブザーの音なんて聞こえないの
#10084;」
ガシャン、とブザーを握りつぶしてしまった。
けたたましい音は消え、音の原因であろう小さな白い箱が中から覗き、お姉さんの手の中で粉々になった。
僕はきっと今、泣きそうな顔をしているのだろう。
「う…ぁぁ……た、たすけて…!」
「うっさいなぁ…
#10084;お口チャックしよっかぁ
#10084;おりゃ…♪」
口を強引にお姉さんの手で塞がれる。
すると、僕の身体に巻きついたお姉さんが目の前で口を開く。
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