あの男との出会い

私はリラ。

好きなものは昼寝
嫌いなものは傲慢なヴァンパイア、イチャコラしている吸血鬼夫婦

少し年齢は若いが立派な成人ダンピールで、ある街の隅っこで小さな小屋を建てて事務所とし、吸血鬼退治士の仕事をしている。


吸血鬼退治の仕事の内容としては…

・近所からの苦情を受けての、吸血鬼と男の痴話喧嘩や夫婦喧嘩の解消
・男からの依頼を受けての、サプライズなどの準備の手伝い(吸血鬼の感覚を鈍らせて勘付かれないようにする)
・インキュバス化しておらず、セックスの求められ過ぎに耐えかねた男からの依頼を受けての、吸血鬼のツンデレほぐし
・吸血鬼からの依頼を受けての、記念日などの吸血鬼のツンデレほぐし

退治と言っても殺すなんてもっての他であり、夫婦トラブル解消やイチャコラのお手伝いがほとんどである。リア充タヒね。


かくいう私も、吸血鬼退治士として働く傍ら旦那探しに奔走しているのだが…どうも興味を惹かれる男は現れない。

ダンピールの中には吸血鬼の婿に惚れ、吸血鬼ともどもその男のしもべとなるケースもあるようだが…あいにく私の元に依頼が来たのは夫婦間でベットリくっついた惚気バカ夫婦ばかりであり、男勝りな性格と口調も相まって未だ処女という有様である。


まあ私の話はいいだろう。

これはある男との出会いの物語なのだから。



今日も今日とてお日様が眩しい。

私も一応半分吸血鬼の血が入っているので日光は苦手、厚めの生地で作られたカーテンを窓に取り付けている。

吸血鬼退治士に依頼が来ることはそれほど多くなく、一ヶ月に数度あれば良い方だろう。

そんなわけでカウンターに突っ伏してうたた寝していた私の頭を、誰かが小突いた。


「ふぁい、いらっしゃいませ…」

「どうもこんにちは、リラさんの事務所…ですか?」


やってきたのは人間の男であった。

首や足元まで覆う厚手のコート、180cmほどだろうか…私よりも大柄な体躯、手には大きなカバンを持っていた。

弱気そうで丁寧な物腰の男だが、なにやら不思議な感じを持つ人間だ。


「ああ…そうだが……あ、依頼?それなら…えーと、この用紙に色々と記入してから打ち合わせることになっていて…」

「申し訳ないですが、私はあなたに何かを依頼しに来たわけではないのです」


男は私の差し出した用紙を手で突っぱねた。

もしやクレームか、それとも吸血鬼からの報復の手の者か。

どちらにせよ警戒すべきことなので、私は静かに腰に挿してある剣に手を添えた。

「…それなら要件は一体なんだ?」

「あなたを雇いたい、期間は今日…あるいは明日から、私が盗まれたものを目的の吸血鬼から取り戻すまで」

「…?」

「報酬は言い値で支払います、頭金…というか依頼料として、とりあえずこれだけ」


男は大きなカバンから、私が今まで生きて使ってきた以上の額はあろうかという分厚さの札束を取り出し、カウンターへ置いた。

流石の私もこれには戸惑う。


「ま、待て、話が掴めない…私を吸血鬼ハンターとして雇うつもりか?悪いが私は殺し屋ではないから、個人的な復讐などに加担する気はないぞ」

「知っています、私の目的は20年前…私が6歳の時に私の家から奪われたある物を取り返すことです…取り返しさえすれば、その吸血鬼をどうこうするつもりはありません」


吸血鬼は強い権力や財力をもつ者が多い…そのため盗みを働くなどというのは、極めて珍しい事例である。

その特異な話に、私はほんの少し興味をそそられた。


「……分かった、話を聞こう」

「ありがとうございます!」





男の話によれば…。

・20年前にその吸血鬼は男の家に現れて、まだ幼い男を人質に取って、家宝の御守りの入った箱を半ば強盗のような形で盗み逃げて行った。
・男の父親はそのことですっかり失念しており、つい最近病で死去するまで、床に伏したままそのことを悔やみ続けていた。
・巷で吸血鬼退治士を仕事として活動しているダンピールなど私くらいしかおらず、その話を聞いて父の想いを晴らすために依頼をしている。
・その吸血鬼に関する手がかりや情報はなく、ただ覚えているのは羽が紅く、両の太ももに黒い印が刻まれていたということのみである。


「…ふーむ……」

「どうですか…?やはり、難しいですか?」


難しいだろう。

吸血鬼というのは、ここ最近昔よりグッと数が増えているという。

そんな中である特定の吸血鬼を見つけるというのは至難の業だ。


「現実的に考えて…見つけ出すのは非常に厳しいだろう」

「…そうですよね……ええ、分かっていました」


男は苦々しく笑って立ち上がった。


「ありがとうございました、お話を聞いていただけただけでも嬉しいです…そのお金は必要なくなりました
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