これは国家魔物娘研究所所属保護観察員の僕。
大月昇が書き記したダークマター観察日記である。
稀少なダークマターに関する研究資料として、ぜひ後世に残してほしい。
2○○2年4月2日
天気…晴れ
ダークマターの健康状態…異常なし
「こんにちは、今日から新しく君のお世話をすることになった大月昇って研究員だ、よろしくね」
ダークマターに挨拶を試みた。
ダークマターがいるのは、人間が正気を保てて、かつダークマターの行動に影響がないよう魔力が一定に管理された部屋の中だ。
ちなみに僕の住んでいる部屋よりも広い。
まんまアパートのような内装で、ダークマターは可愛らしい人形が置いてあるソファの上にいた。
「………ノボル、私をどうするの?」
ダークマターにしては少し発達した身体を持っている。
彼女はモヤモヤとした黒い太陽を膝に乗せたまま、ジトっとした目をこちらに向けた。
「どうするって……君は魔物娘の中でも数が非常に少ない、だからこの研究施設で生態調査やら」
「もういい」
ふいと顔を背けてパンダの人形を手でもてあそび始めた。
どうやら嫌われてしまったようだ。
この子は保護されたばかりなので、前任の担当者もいない。
明日こそは気に入ってもらえるよう頑張らなくてはいけない。
2○○2年4月3日
天気…晴れ
ダークマターの健康状態…ご機嫌ナナメ
彼女のいる施設は保護観察専用の住居だ。
他に貴重な魔物娘…アトラク=ナクア、バイコーン、白澤などがいる。
外出は届出さえ出せば自由だが、日をまたぐ場合には宿泊先などを記入した別な申請を出さなくてはならないため多少厄介。
売店(食べ物飲み物大人のおもちゃエッチな本)や娯楽室(映画ゲームセンターテニスコートサッカーコートビデオ鑑賞室)談話室にレストラン(中華和風西洋)と何でもある。
僕もたまに利用するが、半袖シャツ一枚のバイコーンなどが闊歩していて非常に目のやり場に困るうえ、男性職員や研究員がいるとトイレに連れ去られそうになる事案もあるのでやや危険である。
話が逸れた。
とにもかくにもそんなわけで僕は売店で犬のぬいぐるみを買って、彼女に渡すことにしたのである。
「おはよう、体調はどうかな?支給されたご飯は全部食べられたようだね」
「……うん」
ちなみに人の精を食事とする彼女には、人工的に作られた特殊な食べ物が与えられている。
「ところで、今日は君にプレゼントがあるんだよ」
犬のぬいぐるみを彼女に差し出す。
彼女はそれをしばらくの間ジーッと見ていた。
「なにこれ?」
「ぬいぐるみだけど…犬の」
するとさすが魔物娘というべきか、黒い太陽をじりじりと歪ませてこう言った。
「こんなぬいぐるみでご機嫌取りのつもり?私、犬嫌いだし」
思ったよりもワガママで眼の肥えた子のようだ。
こういう時には正直に話すのが一番である。
「あはは…バレたか…どうやら君は研究員が嫌いみたいだから、少しでもお近づきになりたくてね……」
「……」
「犬が嫌いだとは知らなかったよ、これからも君のこと…たくさん僕に教えてくれると嬉しいな」
犬のぬいぐるみを引っ込めようとした時、彼女の細い指が僕の腕を掴んだ。
体温はわりと低いようだ。
「……もらっとくから」
そのまま犬のぬいぐるみを僕から引ったくって、頭を撫で撫でしつつぬいぐるみ達のある場所に置いた。
「あ、ああ、もちろん!おっと…今日はこのくらいが時間だね…明日!ええと…」
「レミ」
「レミちゃん、また明日ね」
頭を撫でてみたところ、特に怒るフシはなかった。
ぬいぐるみのレシートを研究所に提示したところ、事務員のラミアさんこと小山さんに
「職員の個人的なプレゼントは経費では落とせません」
と冷たい調子で言われてしまった。
2○○2年4月10日
天気…くもり
レミちゃんの健康状態…空腹
彼女と一週間過ごした感想としては、別段人を嫌うわけではないが無口で少し分かりづらい子である、ということに尽きる。
最近は人慣れしたのかよく喋ってくれるようになってきた。
「ご飯食べに行こうよ」
「え?朝食は全部食べたみたいだけど…」
黒い太陽がメラメラと揺れ動いた。
「お腹すいたの、早く行こうよ」
一応規定として、ただでさえ自由が制限されている(もちろん研究対象が人と交わるわけにはいかないので魔物娘にとって一大問題である欲求不満もオナニーで解消している)魔物娘の求める娯楽には、常識の範囲内で担当した研究員はなるべく付き合ってあげるべしだと定められている。
それに従って僕は彼女とお昼を食べることにした。
「それじゃ、ご飯を食べながら生態調査といこうか」
「食べる時くらい研究のこと忘れられないの?ノボルは」
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