サハギンちゃんと一緒

「んごっ…んごぉ…はっ!今何時………ああ、そうか、休みか…」

朝6時30分に飛び起きて時計を見る俺。
俺は社畜の青山 智樹。
溜め込んでいた有休を使えと言われたものの、別にどこに旅行に行くつもりもなければ彼女なんてのは、28年生きてきたが、もう何年前にできたか忘れた。
ともかくそういうわけで東京から地方へ里帰り。
母親の作るご飯はいつも通り味が濃くて、父親は酒で肝臓を悪くしながらも港まで行って漁を営んでいる。
そんなわけで6時30分に起きたって家には誰もいない。
両親ともさっさと朝から車で海へ行ってしまっているのだ。

「ふぁ〜あ…ご飯ご飯…」

ラップしてある冷めたご飯をかきこむ。
こうしてゆったりした時間を過ごしていると、社畜からの急変のせいかニートにでもなった気分だ。

「…散歩にでも行くか」

資料の作成も先方との打ち合わせも何も仕事が無い中で、俺が見つけた趣味は散歩だった。
悪いことじゃない、日がな一日ふらついて、腹が減ったら帰ってそうめんでも作って、自分の車でも洗って両親の帰りを待つ。

働き詰めで分からなかったがそんな生活もいいかもしれない。


普通のTシャツに袖を通して半ズボンに履き替え、戸締りして家から出る。
縁側は閉まってないが、まあどこの家もその辺りはルーズだから大丈夫だろう。

「今日は…沢にでも行くか…」

澄んだ水が流れる川。
河原をじゃりじゃりと踏みしめて歩いていると、顔見知りのオッサンに出会った。

「おっ!おはよう、青山さんとこの坊主か!いやあ立派んなったな〜」

「あはは、お久しぶりですね、一緒に虫採って遊んだ夏が懐かしいですよ」

「他人行儀な喋り方すんなよ、都会っ子ったって俺にくらい普通に接してくれよな、おっ!かかった!」

「まだ釣りやってるんだ…今まで大物釣ったところ見たことないよ」

「俺だってマグロくらい釣ってやらあ!」

「川にマグロは…」

楽しそうに釣りをするオッサンと話し終え、沢をふらふら登っていく。
日の照り始めた9時、沢は森の中へと続いていた。

「昔立ち入り禁止だったのにコッソリ入って確か崖から落ちたな…」

今思うとゾッとするような高さから落ちたのだが、あの後どうなったかよく覚えていない。
そういえばあの頃好きだった「無作為戦士ランダム」の合金フィギュアもどこにやってしまったか忘れた。
押入れでも探してみようか。

森の中に入って木漏れ日を浴びてきらきら光る水面を眺めていると、なんだか子供に返った時のような気持ちになった。
つっかけを脱いで沢に足を入れる。
冷たい流れがとても気持ちがいい。

「ふー……」

ついつい癖でポケットの携帯を出しそうになる。
仕事が来ていないか心配なのだ。
自分でもつくづく仕事人間だと思うので、こちらにいる間は極力携帯を使わない生活を心がけているのだ。

「…こんなにだらけてると…なんか仕事が心配になるんだよなぁ」

誰にともなく呟いて体を倒す。
木が風で揺れて耳心地のいい音を奏でる。
ふと気がつけば、まぶたが重たくなっていた。
このまま昼寝でもしよう。どうせ沢の近くとはいえ流されたりしないだろうし。



「し…死ぬかと思った…」

昼寝して1時間、なぜか増水している川に飲み込まれる寸前で腰を抜かしながらも這いずって逃げたのだ。
急流となった川。
これ以上奥に進んでも何もないかもしれない。

「…へくしッ!…あーあ、最悪」

衣服は濡れてつっかけは行方不明。流されたのだろう。

帰ろうとしたその時。

「……」

青い肌に控えめな体つき、大きな目をした女の子…おそらくはサハギンだろう。
数が減ったと聞いていたのだが、若いその子は数m先からこちらをじっと見ていた。

「…?何か用?」

「…!」

話しかけた瞬間に目を見開いてその子は飛びかかってきた。

「おわっ!?ちょ、君は一体?」

「……
#9825;
#9825;」

ぬめった体を密着させてくる彼女。
すりすりと俺の胸に頬ずりしては匂いを嗅いでいる。
このままだと色々ぷにぷにしててまずいので顔を引き離して問いかける。

「ま、待ってくれ!君は誰だ?俺は覚えていないんだけど…」

「…?」

あちらも首をかしげている。
もう一度匂いを嗅ぎ…そしてやはりこちらをじっと見る。
その目はジト目だった。

「あの…なんか悪いこと」

「…!」

ばしっ!と顔面をはたかれる。
痛い。

「ぶッ!」

「…………」

その子は俺の手を掴むとぐいぐいと森の奥へ引っ張った。

「ま、待て待て、どこに連れて行くんだ?おいっ…ちょっ…」

「………」

急に不機嫌になった子に怪力で、子供の頃踏み込んだ以来の立入ご禁制の森の奥へと連れられて行ったのだ。



「……」

その子が手を離してくれたの
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