レスカティエ教国────
数ある教団勢力国家の中でも第二位の戦力を誇る軍事大国だ。
国の四方を森に囲まれ、農作物を育てるのに適した農地も少なく、近くに価値の高い鉱石を採れる鉱脈があるわけでもなく、国家の力を決めるであろう資源が乏しいこの国が教団国家の中で大きな発言力を持っているのは、他国には無い特産品があるからだ。
そのレスカティエを支える特産品とは、教団の最高戦力たる『勇者』達であり、その『勇者』には及ばないものの厳しい訓練を重ねた末に生み出される質の高い兵士達であり、高度な教育を受けた僧侶に魔術師に軍師・・・。
つまりは『人材』。そして教団がその威光を知らしめ、周辺諸国が最近増加傾向にある親魔物国家に鞍替えをしないように睨みを利かせる要所としての軍事力だ。
建国者がかつて魔王を倒し世界を救った勇者の出自だからか、それとも主神の加護がとりわけ強くなるような『何か』があるのかは分からないが、レスカティエには他国と比べて主神の加護を授かった『勇者』が大量に現れるのだ。
その『勇者』達を養成する為の設備・機関が非常に充実しているレスカティエには、同時に兵士等を養成する設備も充実している。
俺が今、浸かっている一般兵用の大浴場の薬湯もそんな設備の一つだ。
高価な薬草を湯に浸し、しかも浴槽に何かしらの回復魔法も施されているこの浴場は、打撲に切り傷に骨折に筋肉痛と、訓練で傷ついた身体をたちどころに癒してくれる。ゆっくりと湯治し一晩眠るだけで翌日には全快するという素晴らしいシロモノだ。
レスカティエの兵が短期間で強くなれるのは、過酷な訓練の疲れを素早く癒してくれるこの湯も大きな要因だと思う。
結構遅い時間でも熱い湯に入れる。しかも時間が時間なので貸切状態なのは嬉しい……のだが、税金の無駄遣いのような気もしないでもない。
高価な薬草は言うに及ばず、湯も薪も、そして維持費だってタダじゃない。一日運営するだけで俺の給料のウンヶ月分が掛かるのだと、馴染みになった職員に聞いたことがあった。
レスカティエは確かに大きな国だ。中心部の煌びやかさは商業都市もかくやと言うほどのものでもある。
『勇者』を多数輩出する国であるということから、教団から莫大な資金と物資が集められ戦力育成の場として運営されているのだ。
その為レスカティエの富裕層の大半は資金運営に携わる教団関係者を始め騎士団の関係者が占め、養成施設を運営する職員が中間層の大半を占めている。
そしてそれ以外の国民の大半は、貧困層だ。
資源も少なく、街道が幾つもひかれているとは言え教団の威光が強いがために商売を始めるにも窮屈で、しかも教団の(大衆向きの)教えが質素倹約を善しとするものなので、レスカティエの経済は決して潤っていると言えないのだ。
莫大な資金が投入されようが、それが国民に還元されないのだから当然、貧富の差が拡がる。その上に、貧困層の声をまったく反映しない重い税制が圧し掛かるのだから・・・。
貧民街にある俺の居た教会兼孤児院は、院長が『勇者』の一人だったこともあってまだマシなほうだったが、それでも日々の暮らしは楽とは言い難いものだった。
俺が兵士を志した理由の一つは、孤児院の経営を助けることだった。
理由があって子供の頃から暇を見つけては剣を振っていて、自分に出来ることで一番だった剣を仕事にしようとしたのもあるが、一般労働者の給金よりも下級兵士のそれのほうが遥かに高いのも大きな理由だ。
サーシャ姉さん……院長はあまりいい顔をしなかったが―――俺が危険な目に遭うのが嫌だったんだろうな―――それでも俺は彼女と妹弟達の助けになる道を選びたかった。
実際、若造としては悪くない額を仕送りとして孤児院に入れられるようになったが、こうして莫大な資金で作られた設備を使う度、貧民街出身の身としてはこう、何と言うか、申し訳ないような……なんとも言えない気持ちが湧き上がってくるのだ。
いや自分で使っている以上、文句なんか垂れちゃいけないんだろうけど…。
…まあ、勿体無いなぁとか…民間経営とかにすれば少しは貧困に喘ぐ人も減るんじゃないかなぁとか………
やめよう……気が滅入ってくる………
「んっ……よっ……と」
腕を交差させてゆっくりとストレッチ。
湯治の効果を高めるため、明日の訓練に備えるための日課だ。
酷使した腕と、足とを力を入れて握って、ほぐして、握ってを繰り返す。
自分で人一倍、と言える程度には訓練を重ねた事、教官―――俺が所属する部隊の隊長でもあり、しかも勇者でもあったりする―――が新兵の教育に熱心(過ぎる)な方だったお陰で、兵士となってから日は浅いものの、俺の実力はなんとか騎士団の任務に参加させてもらえる域に達していた。
下級兵士の中でもそれなりには強いほうだとも思う。教官には未だ
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