とある山の中腹に建てられた神社がある。
都にある名の知れた寺社のようには大きくはない、鬱蒼と茂る山林の中にひっそりと存在している小さな神社。
だが百足を象った銀の装飾の施された立派な鳥居に、古いが良く手入れされて大切にされてきた境内と小綺麗な拝殿。
拝殿の奥では、全裸の男に大人の胴ほどの大きさの異形が絡みついていた。
袈裟懸けに、腹にぴったりとその身を張り付かせ、紫色の粘液を滴らせて男の全身に愛おしげに、そして執拗に粘液で濡れた身体を擦り付ける。
自分の全身を使って、これから愛で食べる獲物に蜜を塗りつけるかのように。
「んんぅ……
あぁ、ん………っ」
異形は男に身を絡みつかせているが、その全てが人ならざる姿をしているわけではない。
巨大な百足の胴をしているが、その上に乗るのはやや暗い印象を受ける妖艶な女。
黒に紫を溶かし込んだような艶やかな長い髪に、細身の白い肌。
入れ墨のような紫色の模様が、その白い肌をいっそう艶めかしく見せる。
彼女は百足の脚で男に上体に巻き付いて、人間の身体で男の下半身に抱きついていた。
「んふ…… あん……
れぇる……っ」
百足の胴の上は人の姿をしているが、人にはない器官も彼女には存在する。
際だっているのは頭部に生える百足の触覚と、首回りに生えた顎肢。
彼女は拘束した男の下腹部に顎肢の牙をごく浅く突き立てて、ゆっくりと、じっくりと自らの持つ淫毒を男の身体に注ぎ込んでいた。
催淫と強壮の作用を持つ毒の効果で、男の一物はばかり怒涛し先端から先走りを止めどもなく流し続ける。
彼女はその零れでる先走りを一滴も無駄にせぬと、執拗に先端を舌で舐め、唇で包み、しゃぶって吸い付く。
「ちゅぅ…… ちゅぅ………っ
う、ふふ………あぁむ……
hearts;」
いきなりこんな場面で失礼。
私の名は成忠(なりただ)。姓は、伊達。
この地の領主である伊達家の次男にあたる。
一応、この亘理(わたり)神社にて神主を務めさせていただいている。
首に生えた顎肢で淫毒を送り込みながら、小さな口で私の一物をしゃぶっている百足の化生は
この神社の巫女であり、御神体でもあり、そして私の妻である大百足……亘理だ。
我が伊達一族は日の国(大陸の人間は“じぱんぐ”と呼ぶ)が戦乱の世だった時代に同じ姓を持つ主君に仕え、戦乱の世が終わるとこの地に根を下ろし領地の発展に寄与してきた。
この地は土の氣が豊かで作物が良く育ち、近くの山からは質の良い銀が採れ、それが我らが領地を支える大切な産業となっている。
今でこそ人と妖が共に生きる平和な土地だが、ご先祖様が流れてきた当時は住処を巡って人と妖達が争っていた。
その妖の中でも特に勢力が強かったのが日の国で『怪物』とされている百足の妖――“大百足”だった。
土地を巡っての血で血を洗うような争いが長く続いたが、その争いはある日突然に終わる。
日の国を含めたこの世の全ての妖が、妖艶な美女にその姿を変えたのだ。
大陸の向こうで妖の王の代替わりが起こったためと伝えられているが、私の生まれる何百年も昔の話であるから、詳しくは分からない。
ともあれ、妖が人の言葉を解し、人の命を徒に奪うことが無くなって我々の争いは終わりを迎えた。
そして人と妖の、武力に頼らない交流が始まったのだ。
ご先祖様は大百足を始めとする妖たちと和解し、共に生きる道を選んだ。
山の中腹に建てられた我が亘理神社は、人と妖が力を合わせて建立した共存の証だ。
領地の豊穣を祈願する信仰の場でもあり、人と妖が共に手を取り合って生きる祈りの標でもある。
領主の一族である我が伊達家には、山の神となった大百足の一族との取り決めがあった。
大百足に限ったことではないが、妖は子を成すために人間の男を必要とする。
伊達家の男は、家督を継ぐ者以外は大百足を始めとする妖の夫として家を出ることになっている。
妖との間に生まれる子は全て女子で、しかも必ず妖であるため、血を絶やさぬために家督を継ぐ者は人の子を成さなくてはならない。
(我が領地、我が一族に限らず、豪族や貴族にはそういった義務としての制約があるものなのだ)
次男坊である私は、家督を継いだ兄が兄弟の中でも特に優秀で、若くして既に世継ぎにも恵まれたことで後継者としては御役御免となり、亘理の夫として亘理神社へと婿入りを果たした。
神社と同じ名を持つ我が妻、亘理とは幼馴染でもあった。
いずれは夫婦になるかもしれない間柄ということで幼い頃から頻繁に顔を合わせ、ごく自然と思い合うようになっていたが、お互い永らく触れ合うことは許されず悶々とした苦しい思いをした。
兄の身に何かあったときは私が家督を継がねばならない為、後継者が決まっていない内に妖の夫
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