「お父様からラービスト大司教にあてた手紙?お母様と出会った後で?そんなの初めて聞いたわ」
「儂も初めて聞いたな、スクル、まずその手紙が見つかった経緯を聞かせてくれぬか」
私もフィムも驚いた、お父様が教団や反魔物国家あてに手紙を送ったということ自体今まで聞いたことがなかった。
「僕がおとがめなしと決まった後に、君たちが大学に来た理由をキルムズ教授に聞かれたから、バシリュー日記やラービスト日記のことを述べたら教授はすごく興味を持って、すぐに歴史学科総出で調査が始まったんだ」
「教団としても歴史学者としても興味をひかれる話じゃからな」
「ねえスクル、手紙が見つかったということは、日記を読んでも魔物や魔界に詳しくないと分からないんじゃないかというスクルの考えは」
「ごめん、完全に間違いだった」
スクルは素直に謝った。
「別に謝るようなことじゃないわ」
「話を続けるけど、僕はもう一つ勘違いをしていた。図書別館に入館するには特別な許可が必要なんだけど、僕のときは許可を取るには申請書に調査の目的を書くだけでよかったんだ。だからバシリューのときもそうだったと思いこんだんだ」
「どういうことなの?」
「僕は大学の学生だから手続きは割と簡単だった、だけどバシリューみたいな大学の外の人の場合は申請書に閲覧を希望する資料や本の題名を、日記だったら教団歴何年というところまで、具体的に書かないと許可が出ないんだ。僕はそのことを知らなかったんだよ。でも教授や先生方は知っていたから、その当時の申請書を見つけだしてバシリューが読んだ日記を特定したんだ」
「でも私たちが読んだ日記に手紙を隠せるようなところは、なかったと思うのだけど」
「僕たちが読んだ日記は閲覧用の複製本なんだよ、あれをいくら調べても手紙なんか見つかるわけがない。ちなみにバシリューが読んだのは日記の原本だった」
「・・・じゃあ私たちのしたことって全くの無駄だったってことなの?」
「結果論ならね、学者のはしくれとして言わせてもらうなら、この世にまったくの無駄なんてことはあり得ないよ」
「お主の学者論はおいといて、儂らが日記の原本を見ることはできなかったのか?」
「原本はとても重要な資料だし劣化の問題もあるから、いくつも鍵がかかっていて、警報装置まで設置されている地下室に厳重に保管されているよ。もちろん僕は入ったことはないし入れない。バシリューは大学に多額の寄付をしてようやく閲覧できたそうだよ」
「そう言われるとぜひ侵入してみたくなるのお」
「今度行ったら捕えられるぞって言ったのは誰よ」
「話を戻すよ、日記の原本は表紙に分厚い紙を使っている、よく調べたところ裏表紙は2枚の紙を貼り合わせていて、その間に手紙があった。一度はがれて貼り合わせた跡があったからそれはバシリューのときのものだろう。なんかのきっかけで偶然発見して、結局戻したんだ」
「そしてその手紙の内容があまりにも衝撃的だったからスクルが危険を承知で、大学に戻れないのを承知で魔王城まで来たってことなのね」
「一体どのような内容なのじゃ」
「手紙の写しは持ってきたよ、僕が口で説明するより実際に読んでもらった方がいい、ただし破壊力は抜群だから気をつけて読むように。僕だけでなく教授や先生方もしばらく思考停止状態に陥った代物だよ」
そう言ってスクルは荷物の中から二重の封筒に入れられた手紙を取り出し、折りたたんだままで私たちに渡した。
「・・・フィムが先に読む?」
「・・・怖いから一緒に読もうではないか」
手紙の出だしは『親愛なるラービストへ』で始まっていた。
『親愛なるラービストへ
俺がお前や主神様や教団を裏切ったのは間違いない事実だ、だがどうしてもこのことだけはお前に伝えたいのでこの手紙を送る。
俺は愛しているんだ、愛しているからこそ裏切ったんだ。
洒落や冗談ではなく本気だ、この全身を貫く思いをお前にどう伝えたらいいのか分からない。
思うたびに体が震え、食事ものどを通らなくなる。
愛するということがこれほどつらいものだとは思わなかった、お前ならわかるだろう?
この手紙を受け取ったお前は怒るかもしれない、しかしどうしてもこの気持ちは分かってほしいんだ。
この気持ちは永遠に変わることはない、決して無い。
頼む、分かってくれ、分かってくれるためなら俺は何でもする、死んでもいい。
(以下同じような文章の繰り返し、最後にお父様の署名)』
(しばらくお待ちください)
ここは誰?私はどこ?
(エラーが発生したので一旦電源を切り再起動します)
気が付いたらスクルが目の前に座っていた、あれ?前からだったっけ?
「ようやく正気に戻ったようだね、僕や教授のときより長かったかな?」
「・・・・・・・・・・スクル、この手紙が本物か、偽物かの調査
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