主な反魔物国家からできるだけ親魔物国家や他の魔界を経由せず魔王城に船で行く場合、港町トーポシームは上陸地点といえる場所にあった。
トーポシームまでは中立国の船で来ることができるので、船が魔物に襲われることを心配せずに済んだ。
中立国の船はだいたい魔物侵入禁止区画があるので、船内で魔物に襲われることも心配せずに済んだ。
問題はここから先魔王城までどうやって行くかだ。
普通に歩いて行ったら途中で魔物に襲われるのはほぼ確実だ、研究・調査のためにあちこち旅はしたが、なるべく治安のいいところを選んで歩いたので荒事には全く自信がない。
護衛を雇うという方法もあるが、僕はこの町には全くコネがない。
安全、確実に魔王城に行くにはどうすればいいか。
船の中で考える時間は充分あったので、下船してすぐ通りすがりの人に道を聞くことができた、その人は不思議そうな顔をしたが目的地への道を教えてくれた。
トーポシームは前述のように魔王城への進行ルートの一つであるので、過去何度も反魔物国家や教団の軍隊が上陸しようとしたり、近辺で海戦がおこなわれたりした、そのためこの町には平時から魔王軍が駐屯していた。
駐屯地は港のすぐそばにあった、そこの入り口に立っていた魔物の兵士(外見からしてたぶんリザードマン)に「用件があるのですが隊長か司令官あたりに会わせていただけませんか?」とお願いしたところ不審人物を見るような眼で見られたが、しばらくして隊長室と思われる部屋に通してくれた。
さきほどたぶんという言葉を使ったが、つい先日リリムとバフォメットに会うまで僕は魔物をじかに見たことがない。
親魔物国に来るのは初めてで、この後魔王城まで行く予定なので、大学を出発する前に禁書扱いになっている魔物娘図鑑をキルムズ教授に頼んで見せてもらった。
図書館の禁書庫に入れるかと期待していたら、教授が一冊持っていた。
大丈夫なんですかと聞いたが、禁書扱いにされると読みたくなるのが学者というものだ、とのことだった。
話を元に戻すが、魔王軍の隊長(鎧を着ていて剣をさしているということ以外特徴がないのでたぶんデュラハン)に自己紹介と用件を伝えたところ奇妙な物体を見るような眼で見られた。
「確認するがお前の用件とやらは、われわれにお前を魔王城に連れて行ってほしいということか」
「できることなら安全、確実、迅速にお願いします」
「そしてお前は教団の人間だと」
「はい」
前にも言ったが僕はうそをつくのが下手なので、正直に答えた。
それにここの魔王軍の中に、他人が考えていることを読める魔物がいるかもしれない、そうならうそをつくだけ無駄だし、より疑われる。
「魔王様を倒しに来たわけではなく、勇者どころか斥候、間諜の類でもないと」
「その通りです」
僕は大学では制服を着ているが、現在は普通の旅装束を着ている。
持ち物で武器と言えそうなのは、自炊用の料理ナイフくらいである、これで勇者に見えるようなら魔王軍の隊長としては問題ありだ。
「大学の学生で、目的は学術調査だと」
「これ学生証です」
ここで通用するかは分からないが、教団の施設なら学割も使えるすぐれものである。
隊長は頭痛をこらえるような顔をしたあと、僕が入り口で声をかけたリザードマンの兵士を呼びつけた。
「おい、なんでこんな奴を中に入れた」
「てっきり隊長や司令官のお知り合いかと思いまして」
「こんなわけのわからん知り合いはおらん、その程度のことも自分で判断できないのか?」
「お言葉ですが隊長、普段から上司への報告、連絡、相談の『報、連、相』を忘れるなと、司令官も隊長もおっしゃっていたはずですが」
上司と部下のこの手の問題というのは人間も魔物も変わらないらしい。
しかし話が進まない、このままでは断られてしまうかもしれない、学術調査の詳しい中身も説明した方がよいだろうかと考えていたところ、隊長は僕に告げた。
「お前の言うことが本当かどうかは分からない以上、誰かの紹介でもなければ連れていくことはできないぞ」
「紹介はありませんが、魔王城に知り合いはいますよ」
「本当か?」
「エルゼルというリリムと、フィームズというバフォメットです」
「リリムとバフォメットだと!?」
エルゼルから聞いた話から推測すると普段は魔王城に住んでいるようだし、フィームズはエルゼルとかなり親しい関係なようだから魔王城にいる可能性は高そうだ。
今二人とも魔王城にいない可能性もあるが、この際利用できるものは何でも利用しよう。
隊長が魔王城に連絡を取って、二人のどちらかに確認が取れれば、すぐ僕を魔王城へ送ってもらえるだろう。
隊長はしばらく考えていたが、やがて兵士に魔法通信用の魔道具を持ってくるように指示した。
しばらくしたら兵士は手ぶらのまま戻ってきた。
「魔法通信ですが、あまりに私用で使
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