「帰るってどういうこと!」
「文字どおりの意味じゃよ、エル。襲撃してきた連中じゃがなかなか手ごわい相手じゃ、まずこの網じゃがな」
フィムは自分の全身を覆っている網を外しながら話した。
「連中は突入してきて真っ先に儂にこの網をかけおった、この網は魔力をとても流しやすい特殊な繊維でできておる、この状態で外部に攻撃魔法をかけようとしても網自体が魔力を散らしてしまうのじゃ。この状態で使える魔法といえば自分自身にかける魔法、たとえば転移魔法くらいじゃ。あとこれでは物理的に体を動かしにくくなるわな」
「すぐ網をって、じゃあ教団兵はどこから突入してきたの?いきなり爆発があって煙で何も見えなくなったから全然わからなかったわ」
「教団の主要施設のど真ん中にいたのだから儂もそれなりの対策はたてておった、昨日あの部屋の窓ガラスに発情したミノタウロスの体当たりにも耐えられるような強化魔法をかけたし、扉には儂とお主とスクル以外のものが開けられぬように鍵魔法をかけておいたわ。だからこそ油断してしまったようじゃ、連中は壁を破壊して突入してきおったわい」
「壁を破壊して!?」
「そこまでは予想しておらんかったわい、儂もまだまだじゃ。爆発時に魔力は感知できんかったから魔力を使わない爆発物を用いたのじゃろうな」
ようやく網を外したフィムは丁寧にたたんで懐に入れた。
「この繊維は魔界でも結構貴重なものなのじゃ、研究にも使えるし、高くも売れる」
「爆発物を使ったって・・・、スクルが巻き込まれたらどうするつもりだったのかしら」
「儂もお主も埃はかぶっておるが怪我はしておらんじゃろう、量はちゃんと調整しておったようじゃ、爆発が大きすぎると天井が落ちる可能性もあるし、部屋の中ががれきだらけになるとむしろ連中のほうが動きにくくなるからの」
そういわれて私は自分が埃をかぶっていることに気付いたのであわてて払い落した。
「覚えておるか、スクルが本を拾いに部屋の隅に行った直後に爆発が起き突入してきた、あの部屋は監視されておったようじゃな。監視していた連中と突入してきた連中は魔法通信のできる魔道具を使用してやり取りしておったのじゃろう、お主も知っての通りそれ専用の魔道具がないと魔法通信の魔力を感知することはバフォメットの儂にでも困難じゃからな。それにしても監視されていたことにも気付けなかったのじゃからやはり油断大敵じゃ」
フィムも自分が被った埃を払い落し、「どっこいしょ」と声を出してその場に座った。
そこまで聞いて、転移魔法を使いそこねていたら私は今頃網をかけられ捕えられていたかもしれないことに気がついてぞっとした。
突入してきた教団兵はかなり用意周到な人たちなようだから、私の最大の武器である魅了にも何らかの対策を立てていたに違いない。
ただでさえ青ノリの件で自信喪失気味だったというのに。
考えてみると私には辞書的な意味での実戦経験がほとんどない、だからとっさの事態に対応できずおろおろしているだけだった、リリムが生来持つ強力な魔力も宝の持ち腐れだ、今度からはもう少しまじめに戦闘訓練を受けることにしよう。
そこまで考えて別のことに気がついた。
「そういえばどうして私たちのことを教団は知ったのかしら、スクルにかけた呪いが解けたの?」
「呪いが解けたかどうかはスクルをじかに見れば儂にはわかる。あ奴にかけた呪いは解けておらん、一度解けてまた同じ呪いをかけたということもない」
「それなら魔物の魔力に反応する警報が大学のどこかに仕掛けてあったとか?」
「教団がそういう警報の研究をしているという話は聞いておった、だから儂らが着ている制服には魔力漏れを防ぐ加工をしておる。お主の魅了の力も意図的に使おうとしない限りはある程度抑えられると説明はしておったはずじゃ」
「じゃあフィムが『てっぱん亭』の前で駄々をこねていたのを見ていた人たちが気付いたってことね」
「あの時はたいして騒ぎにはなっておらんかったわい、みんな儂とお主を生温かい目で見ていただけじゃたろうが」
「気付いていたならやめなさいよ!すごく恥ずかしかったんだから。本気で息の根を止めようと思ったくらいよ」
私とフィムが泊まっていた宿の従業員やほかの宿泊客が気付いたという可能性も考えたが、それならば宿で襲撃してくるはずだ。
「もしかして教団にきわめて強力な探知系の魔法が使える勇者がいるとかは?」
「可能性はあるが推測にすぎぬな」
「じゃあ結局分からないってこと?」
「現時点ではそうとしか言えぬ」
「スクルは襲撃のことは知っていたのかしら?」
「もし教団が儂らの侵入に気付いたのなら、連中は何らかの形でスクルに接触するのではないかと予想はしたので、本人に気付かれぬようにスクルのことはそれなりに注意しておった。儂の見たところあ奴はうそをついたり演技をす
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