トセウチ地方は長きにわたり魔物が住む魔界だった、しかしお父様が生まれたときより200年ほど前に当時の勇者が魔物達を倒し人間が住むようになった。
その後お母様が魔王になってからも反魔物国として続いていたが、今から100年ほど前、領主の娘が不治の病にかかり、魔物化して助かったのがきっかけで親魔物国になった。
魔界だったころ、この地にいたのはバフォメットやヴァンパイアといった知能の高い種族だったため、旧魔王時代の魔物の記録が多数残っている、私とスクルはその記録を調べるためにこの地にやって来た。
「でもスクル、ここが魔界だったのはお父様が生まれたときより200年以上前だったんでしょ、もしここにお母様の記録が有ったらお母様はお父様より200年以上年上ということになるのよね、無かったとしてもお母様が聞いたら『私はそんなに老けて見えるの』ってお怒りになるわ」
今のところスクルと私はお母様の出自を調べることを研究の目的にしている、お母様の旧知の魔物に会って話を聞くという手段もあるが、今回は魔王城以外の場所で古い記録にあたってみることにした。
「このあたりは旧魔王時代の記録がたくさん残っていることで有名だったけど、今は親魔物国家になったから、教団の人間が簡単に来られるところでは無いんだ。だからどうしても来たかったんだよ」
「お母様がらみの記録がなくてもいいってこと?」
「もし有ったのなら儲けものっていう程度、どのような記録があるか傾向だけでもつかんでおきたいんだ、一度来ただけで全て見られるわけ無いからね」
「結構大雑把なのね」
「下手な弓矢も数撃ちゃ当たるの精神で気長に行かないとね。目的の資料がすぐ見つかるとは限らないし、今は必要なくても後で役に立つかもしれないからね」
私自身旧魔王時代の歴史にも興味を持ち始めたのでスクルの考えには反対しなかった。
「スクル、この辺りはお母様が魔王になる直前のころの記録みたい」
私たちはトセウチ地方の中心部にある図書館に来ていた、旧魔王時代の魔界だったころの記録を一通り調べたが、お母様に関する記録は見つからなかった、そのことはある程度予想していたので、他の時代の記録も調べることにした。
「手分けして調べてみよう、魔王様が反乱をおこしたときの記録や勇者様が教団で活躍していたころの記録が見つかるかもしれない。エルゼルはそっちの棚を見てみて」
「了解」
一列目の棚を見てみたがめぼしいものは見つからなかった、二列目の棚を見てみたら古い雑誌のバックナンバーが並んでいたので一冊取り出して題名を見てみたら『主神様の教え』といういかにも生真面目そうでつまらなさそうな題名だった、しかしこの時なぜだかピンと来るものがあり本を開いて読んでみた。
「スクル!ちょっと来て!!」
思わず大声でスクルを呼んでしまった。
「どうしたエルゼル!」
あわててスクルが駆けつけてきた。
「こ…これ…」
私は雑誌を開いたままスクルに見せた、雑誌には見開きで『勇者、教団幹部の妻との姦通罪で告訴される!!』という見出しとお父様の名前が一緒にでかでかと掲げられていた。
「『主神様の教え』は勇者様が教団にいたころに発行されていた雑誌でエロとグロ、そしてスキャンダルを売り物にしていたんだ、教団からは『俗悪の極み』ってなんども発禁処分を受けたけどそのたびによみがえったんで『ゾンビ雑誌』なんて言われたくらいだよ」
「そんな俗悪雑誌がなんで『主神様の教え』なんて題名なの?教団が発行していると勘違いさせるため?」
「この雑誌を編集、発行していたのはテクレという人で教団の聖職者だったけど辞めてこの雑誌を創るようになったんだ」
「その人は主神や教団に恨みでもあったの?」
「いや、彼はある意味とても熱心な信者だったよ、何度も教団に捕まったんだけど『いかに醜くて愚かであろうともこれこそが人間の嘘偽りのない本性だ、決してこのことから目をそむけてはならない、これこそが主神様の教えだ』と主張を変えようとはしなかったそうだ」
主神が聞いたら『私そんなこと言って無い!(涙目)』って言いそうな話だ、信者が大勢いれば変な人の一人や二人はいるのね、お気の毒に。
「そのテクレさんは懲役刑とか死刑にはならなかったの?明らかに異端よね」
「雑誌の愛読者や支援者はかなり多かったからそうはならなかった、雑誌としてのできはとても良かったんだよ、雑誌が発禁処分になりテクレが罰金刑や追放刑を受けても彼らのおかげで直ぐ出しなおすことができたんだ」
「なんかとても読みたくなってきた」
「僕も同感だ、発禁処分されていた雑誌だから教団にはほとんど無い。当時の世相や風俗を知るための資料としての価値はとても高いからずっと読んでみたかったんだ」
「でもトセウチ地方はその頃は教団の友好国だったは
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