「スクルごめん」
「えっ、何かした?」
「考えてみたら、私が余計なことを言ったせいで話が変な方向に進んでお父様への聞き取りが打切りになったのよね」
スクルが魔王城に来たのはお父様への聞き取りだということを忘れていた、スクルには申し訳なくおもったが、寝室でうなされているお父様への罪悪感は何故かまったくなかった。
「別に気にするようなことじゃないよ、勇者様はラービスト大司教のことを『敵にしたくない相手』と表現していたけど、借金と詩集の話のおかげで裏付けられた、亡くなった後もなお苦しめるのだからね。それに聞き取りの途中に話がそれることは別に悪いことじゃない、こういうときに意外な話が聞けるものなんだ」
スクルは私に気を使っているわけではなく本心でそう思っているようでほっとした、研究を邪魔せずにすんだわけだ。
スクルは3日ほどかけて大学への報告書を作成して、中立国を経由して送った。
その頃にはお父様の具合も良くなってきたのでスクルとお見舞いに行くことにした、事前にスクルも行っていいのか聞いてみたがお父様は別にかまわないとのことだった。
まず私が寝室に入ったがお父様はやつれてはいたが元気そうだった、私の顔を見て「見苦しいところを見せてしまったなあ」と笑うだけの余裕はあった、ええ実に見苦しかったですと危うく言いそうになった。
スクルも部屋に入っていいかと念のためお父様に聞いたら、別にかまわないとのことなので隣の部屋にいるスクルに部屋へ入るように言った。
部屋に入ってお見舞いのあいさつしたスクルにお父様は「いやー、スクル君にもすまなかったねえ」と言いかけたが、ぎょっとした顔になりスクルを凝視した後いきなり布団をかぶってガタガタ震えだした。
「ななななななんでスクル君の後ろにラービストが立っているんだ!」
私とスクル、お父様のそばにいたお母様もびっくりしてスクルの後ろを見たがそこには誰もいなかった。
「俺をそんな目で見るのはやめろぉぉ!」
私もお母様も何も感じなかったが、念のためアンデッドやゴーストに詳しい魔物に来てもらいスクルやお父様を調べてみたが別に何かに憑かれてはいないとのことだった。
どうやらお父様にだけスクルの後ろにラービストさんが立っているのが見えるらしい。
医療系の魔法が専門の魔物達にお父様を診てもらったがお父様の精神に深く刻み込まれたトラウマはもはや魔法では治せないとのことだった、全員口をそろえて「時が経ち、自然に治るのを待つしかありません」とのことだった。
隠しておきたい過去をまたスクルに暴かれるかもしれないという恐怖が、スクルの後ろにラービストさんが立っているという幻影をお父様に見せているようだ。
当面の対策としてスクルをお父様に会わせないことと、お父様の前では「借金」「詩集」「ラービスト」を禁句とすることになった。
スクルはお父様に申し訳ないと思ったようなので私は「スクルは何一つ悪くない、みんなお父様の自業自得、因果応報よ」と慰めた。
そうこうしているうちに今度は私が忙しくなった。
なにかというと私の姉妹たち、つまりリリムで魔王城の外に住んでいる者や、旅をしている者たちが急に魔王城に駆けつけてきたのだ。
全員ではないがそれなりの数で、中には完全武装して来たのもいた。
どういうことかと思ったら私の知らないうちに「教団の勇者がたった一人で魔王城に乗りこみお父様と一騎打ちの末、お父様に重傷を負わせた」といううわさが魔界のかなりの範囲に広がっていたのだ。
もちろんこの「勇者」とはスクルのことである、そういえばお母様とお父様も最初はスクルを教団の勇者と勘違いしていたっけ。
だがお父様に(精神的な)重傷を負わせるという今までどの勇者もできなかったことをスクルはやってのけたのだ。
うわさを信じて駆けつけてきた姉妹たちへの応対はフィムの協力を得ながら私が行うことになった、お母様はお父様の看病につきっきりで、一連の事情に一番詳しいのは私だからである。
スクルはなるべく表に出さず姉妹たちに会わせないことにした、姉妹の中にはその「勇者」を私が倒すと息巻いているのもいたし、誤解を解くのに時間がかかったからである。
スクルは魔王城の図書室にこもってひたすら本を読んでいた、教団にはない本をたくさん読めてとてもうれしそうだった。
誤解を解くには一連の事情を説明しなければならないのだが、フィムと相談して「詩集」の話はするが「借金」の話はしないことにした。
なぜなら「借金」の話を聞いたら特に過激派の姉妹たちがラービストさんの子孫を襲って魔物化したりラービスト大司教領を魔界化したりしかねないからだ。
フィムの考えではラービストさんが魔物化、魔界化により新たに発動する罠を仕掛けていてもおかしくないとのことだ、とても説得力があったので私も同感だった。
しかも
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